それは手から始まる恋でした
 私は高良が女性と会っているんじゃないかと不安になっていた。だが彼は父親とそして自分と戦っていた。出張中もそうだった。

 港の言葉で不安になり、私の為に一分一秒を惜しんで働いてくれた彼にあらぬ疑いをかけていた。ちゃんと高良を見よう。彼が何を好きで何が嫌いでどんなことを思っていて何故そんなことをしているのか、他人の言葉ではなく高良の口から聞こう。

「仁の好きな食べ物って何? チョコ?」
「いきなりなんだよ」
「だって聞いたことなかったから。それにいつもチョコ食べてるし」
「チョコ好きだし甘いもの全般好き」
「そうなの? 意外! 絶対甘いものより酒! って顔じゃん」
「顔で判断するな。でもこの顔のせいか穂乃果とスイーツ店に行くといつも周りから変な顔される」

 そういえば穂乃果さんが昼間に来てたんだっけ。既婚者だけどどうなんだろう。

「あんなに見られるくらいならもう店で食いたいとも思わないが」

 周りが見ていたのはきっと二人が美男美女カップルだったからだ。憧れる目をしていたんだ。

「穂乃果さんっていつ結婚したの?」
「なんだいきなり」
「新婚って言ってたから今日が初めてのクリスマスイブなのかなって」
「そうかもな。いきなり結婚するって言ってきたからあんまり知らない」
「そっか。穂乃果さんってバニラアイスの子でしょ?」
「よく分かったな。小さいころから面倒ばっか見させられたよ。でもあいつのお陰で紬に出会えたんだなって思うとそれも悪くなかったかも」
「穂乃果さんのお陰?」
「……もう穂乃果の話やめよう。せっかく俺らの初めてのクリスマスイブだ」

 高良は私の手を優しく撫で始めた。私と出会ったのは穂乃果さんのお陰ということは、私たちが出会ったあの日穂乃果さんのことで何かがあった。そう言えばあの日綺麗なスーツだった。会社とは違うまるで結婚式に出席するような。

「私と会った日が穂乃果さんの結婚式だったの?」
「は? まだ続けんの? その話」
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