それは手から始まる恋でした
   ***

 俺の彼女は世界一可愛い。

 そんなことを思う日が来るとは思わなかった。思ったとしても相手は穂乃果のはずだった。だが、俺の世界一可愛い彼女は波野紬だ。

「仁がベタ惚れのホッカイロちゃん早く会いてぇ」
「会わせない。毒がうつる」
「毒ってなんだよ。でもこの上に行けば会えるんだよな。今から行っちゃおうかな」

 陵と俺は同じマンションに住んでいる。俺の方が上の階だ。

「俺がいるとき以外は誰も上げるなと言っているから無理だ」
「でもそんなにいいなら俺も一度手合わせ願いたい。いつも女共有してんじゃん」

 紬との相性は抜群だった。過去の経験とは比べ物にならないくらい最高だった。何度も何度も紬を求めてしまう。誰とも共有なんてしたくない。俺だけの紬だ。

「それは女が尻軽なだけだろう。紬は違う」
「ふぅんますます気になる」
「万が一彼女に会っても穂乃果のことや昔の女のことを話すなよ。あいつ俺が穂乃果のことを好きだったんじゃないかって疑っている」
「疑うも何も本当じゃん」
「そんなこと知ったらまた暗くなる」
「暗くなる?」
「俺に他の女がいるとか、出張中に女を連れ込んだとか勝手に考えて落ち込むんだよ」
「沢山女がいて、出張中に女連れ込むとか昔のお前そのものじゃん」
「今は違う。だから変な勘違いで彼女を失うのが怖い」
「ようやく仁にも怖いものができたか。俺が天下を取る時代もそう遠くはないだろう」
「陵が天下? 笑わせるな。俺がいる限りお前は永遠の2番手だ」
「ひでぇ。そんなこと言うから人がついてこないんだぜ」
「そ、それはこれからだ」
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