それは手から始まる恋でした
 そこで高良補佐役を採用することになり私がそのお役目をいただけたというわけだが、3ヶ月持つのだろうか。
 うまい話には裏があるとよく言うがまさにその通りだった。私はまず研修期間の3ヶ月を乗り切らなければならない。

 私の席は高良の側だった。だが、高良の席は普通の席とは異なっていた。他の社員がいる島とは少し離れていて、窓側の全体を見渡せる位置にあり、窓の外を見ると東京が一望できる最高の席だ。かっこいいフォルムの机に座り心地のよさそうな椅子。このフロアー内で一番偉いのが誰なのか一目でわかる。

 そんな彼の机の側にその雰囲気を害さない一回り小さめの席が用意されていた。
 私はその席に座り、時間を持て余していた。何故なら肝心の高良が来ていないからだ。高良が来なければ私は何をすれば良いか分からない。

 10時を過ぎた頃ようやく高良が出社した。

「おはよう。波野さん」
「おはようございます。本日からよろしくお願いいたします」

 高良は私に握手を求めてきた。初日ということもあって私は快く握手に応じたがこれが失敗だった。彼は私の手の感触を確認するようにむにゅむにゅと握ってきた。

「あの、そろそろ手を離して……」
「やっぱり……」

 バレてしまったのだろうか。もしそうなら人の顔を覚えていないのにリングと手の感触を覚えていたという事だろうか。この人、何フェチ?
 高良は、仕事について説明すると言って私を会議室へと連れて行った。
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