それは手から始まる恋でした
 翌日港はマンションを訪れた。

「うわ~マジもん。凄いね、お金持ちって」

 エントランスに入るなり港は超ご機嫌だ。

「ごめんね、こんな所まで来てもらって」
「いいよ。一度来てみたかったしさ。これからは彼がいない日に遊びに来ようかな」
「それはダメでしょ。せめて彼がいるときにして」
「あ~楽しみ」

 怖い。こうなっている港は危ない。昔友達が変な男に騙されていたことがあった。その時港は新しい彼氏役で男を成敗しに行った。あの時と同じテンション。男は身も心もボッコボコにされていた。可愛いのに港はキレるとヤバイ。

「お邪魔します」

 高良はリビングから出てこない。今日は朝からピリピリしていた。

「あ、君が紬の会社の社長息子?」
「紬の彼氏の高良仁です」
「へぇ彼氏。僕は紬と大学時代からずっと仲がいい永井港です。よろしくね」

 港は有名なパティシエが作る人気のケーキを持ってきてくれた。お昼を兼ねているので私が作った料理を出して食べ始めた。

「これ僕がプレゼントした食器だね」
「はぁ?」
「うん。サイズちょうどいいし、よく使ってるよ」
「僕が家に行った時もよく使ってくれてたもんね」

 高良の眉間に皺が寄っている。今日使うんじゃなかった。

 昨日港のことはちゃんと一から説明した。ソフレではないことも女友達のようなものだという事も。でも高良はますます港を警戒してしまった。

「あはは。そうだね。それよりあのケーキ屋行列ができるって有名だよね」
「あぁ。友達がいるから融通利かせてくれた。それに有名企業の御曹司にあげるからって言ったら即OKだったよ」
「そうですか。わざわざ、ありがとうございます」

 ようやく高良が口を開いた。

「そうだ! 僕が紹介したクリスマスケーキどうだった?」
「美味しかったよ。仁も気に入ってたよね」
「まあまあでした」

 はっ! 港に紹介してもらったことを高良に言ってなかった。港、何故今日はそんなに地雷を踏むのですか? 私は足で港の足をつついた。

「何々? 僕の足を蹴ったりしてそんなに僕と遊びたいの?」

 ちがーう! いつもなら絶対に空気読むはずの港が、ネジですか? どこかにネジ落としてきましたか?

「彼氏が横にいて他の男の足を蹴る?」
「ち、違うよ。足組みなおそうとして当たっただけ。ごめんね、あはは」
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