それは手から始まる恋でした
 翌日から不思議な3人の同居生活が始まった。高良は私と一緒に出勤することになった。高良曰く、穂乃果さんと二人きりになると私が嫉妬して手が付けられなくなるからだとか。よく分かってらっしゃる。まぁその代わりに港と二人きりになるなよときつく言われた。

 帰りも私が先に帰るという形で必ず三人の状態にした。穂乃果さんは料理上手だ。朝晩のご飯は穂乃果さんが担当だ。

「仁ってちょっと会わないうちに変わったわね」
「そうですか? 私にはずっとあんな感じですが」
「そうね。そうかも。私が変わったのかしら。私ね、仁と結婚するって思ってたの。頭脳明晰、怖いものなし世の中全ては敵みたいな顔しているのに私にはすごく優しかったの。風邪ひいたときなんていつも側に居てくれてご飯食べさせてくれたり、私をいじめる子にはいつも仁が怒ってくれた。私が行きたいところはどこでも一緒についてきてくれたの。国内でも海外でもずっと一緒だったわ」
「そうなんですね。旦那さんとは政略結婚なんですか?」
「いいえ。会社のパーティーで出会ったの。とても紳士的な人で仁とは正反対だった。付き合い始めたのは仁への当てつけでもあったの。でも仁は私からの呼び出しが少なくなっていることにも気が付かなかった。今考えたら大学卒業して会える機会が減っていたし仕事で精一杯だったんだと思う」
「なぜ結婚したんですか?」
「父に交際していることが知られてしまったの。父は相手が仁じゃなかったことに驚いてはいたけれど、彼は元々優秀な社員だったから父も大歓迎だった。彼は私よりも地位が欲しかったのね。仁には言っていないけれど、一度プロポーズを断っているの。彼にはまだ早いって断ったけれど、本当は仁への思いを断ち切れなくて。だからその足で仁にプロポーズされたって言いに行ったわ。そしたらね、おめでとうって言われたの。私はそこで仁を諦めたわ。彼は何も知らずに諦めきれないってもう一度プロポーズしてくれた。そのプロポーズを受けた後に会社の後輩と関係を持っているなんて最初は酷いって思ったけれど、私は仁の代わりに彼を選んだ。それが分かっていたのかもしれない。だから愛がなくても地位さえあればいいと思ってしまったのかもしれない」
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