それは手から始まる恋でした
本当に好きな人
 朝起きると彼の姿はなく鍵はドアポストに入っていた。会社に行くとその日高良は出社してこなかった。

 あの日以来、私は毎日早く帰るようにしていた。あんな怖い思いはもうしたくない。でも既にこの部屋を知られている。この部屋に長く住むことはできなさそうだ。

 港も心配してほぼ毎日家に来てくれる。港はまた一緒に暮らそうと言ってくれたが、それはできないと断った。港は一緒に夜ご飯を食べて私が戸締りをしたのを確認して帰っていく。港のお陰か高良が来た日以来、人の気配はしなくなった。港には本当に申し訳ない気持ちと感謝の気持ちで一杯だ。

 仕事はこれまで以上に真剣に取り組んだ。英語も高良がやり取りしている英文を簡単なものなら理解できるようになった。高良の指示も簡単な説明で意図するところを読み取れるようになっている。

 ただ、気になることがある。私の勘違かもしれないが、私の家に来た日からの高良の行動がおかしい。

 私の机から落ちたペンをわざわざ拾いにくる。それも私が拾おうとした瞬間に彼の手が伸びてきて咄嗟に手を引っ込めたので触れることはなかったが、あのままだったら確実に触れていた。

 また別の日は、私の席に来て修正点の指示をしながら何食わぬ顔で私が持っているマウスに手を伸ばしてきた。私は咄嗟に手をずらしマウスだけを渡した。彼はマウスを左右に動かしただけで特に何もしなかった。

 これだけではない。何度も私の手に触れようとしてくる行動。怪しい。怪しすぎる。

 それに私が資料を抱えているとすぐに手伝いに来てくれる。優しすぎて皆が不思議そうな目で見ている。皆に優しくはなったが、私に対しての優しさは異常だ。
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