鎖から放たれた蝶々は美しく羽ばたく
エピソード0 覚えているのは――唇の柔らかさ
その日は打ち合わせ前に、できあがった商材を受け取りにいっていた。

「あっ!」

石畳の僅かな段差に、足を取られる。
転けるのはいいが、いま抱えている商材に傷をつけるわけにはいかない。

「いっ!」

変な声を出しつつ、反射的に頭上へそれらを持ち上げた。

――ズッサーッ!

「いたっ!」

派手に地面へとスライディングする。
かろうじて顔面をすりおろすのは避けられたが、それでも顎をしたたかに打った。

「うー」

ようやく身体が静止し、痛む身体に軽く呻き声をあげながら、荷物を確認した、が。

「あ?」

全く周りが見えない。
転んだ弾みで眼鏡をどこかにぶっ飛ばしていた。

「ヤバい」

「大丈夫か?」

まだ手に掴んでいるそれらを抱き締めつつ立ち上がろうとしたら、声をかけられた。

「あ、えっと。
ありがとう、ございます。
すみませんがそのへんに、眼鏡、落ちてないですか?」

声のした方向へ顔を向けるが、そこに人の形をしたぼんやりしたなにかがいる、ということくらいしかわからない。
それくらい、私は目が悪いのだ。
当然、この状態で、自力で眼鏡を探そうなんて無理。

「眼鏡?」

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