鎖から放たれた蝶々は美しく羽ばたく
本当は一緒になど寝たくない。
がしかし、うちにはお客様用の布団などないのだ。
仕方ない。

「……うるさい」

いびきはいつまでたっても収まらない。
結局そのまま、一睡もできなかった。



「チョーコ、寝不足か?」

「……まあ」

誰のせいだよ!? とか思いつつ、トーストを囓る。
袴田課長は今日はこれから、どうするんだろうか。

「寝不足は肌に悪いぞ。
それじゃなくてお前、顔色悪いんだから」

「……」

俺は心配だ、なんて顔をするくらいなら、私にベッドをあけてほしい。
いびきに足蹴りを食らって、眠れるわけがない。
いつも奥さんはどうしているのだろう。

「食べたら帰るわー。
今日は美里(みさと)が帰ってくるから」

「あ、そーですか……」

にぱっ、と彼が嬉しそうに笑う。
それを無視してトーストに噛みついた。

「ひさしぶりに俺の作ったカレーが食べたい、とか言うからさー。
買い物して帰らないとな」

袴田課長が私に、料理を作ってくれたことなど一度もない。
いつも作るのは、私だ。
なのに、奥さんには作るんだ。

食事が終わり、さっさと袴田課長は帰り支度をした。

「また来る」

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