鎖から放たれた蝶々は美しく羽ばたく
玄関でキスしてくる彼に顔を背けそうになったが、耐えた。

「じゃあ、明日、会社で」

笑顔を作って彼に手を振る。
ドアがバタンと閉まり、彼の顔が見えなくなった途端。

「……はぁーっ」

大きなため息が落ちていく。
それはあまりにも重くて、床に落ちてごとん、と重い音を立てた。

「あ、花束!」

速攻で流しの下を開け、花束を救出した。

「ごめんね。
ほんとにごめん。
……ごめん、な、さい」

昨日も泣いたのに、また涙が出てくる。
でも今日はすぐに拭って、立ち上がった。

「グラスに小分けして飾ったらいいかな。
あ、ドライフラワーとかもできるのかな。
それだったら、ずっと……」

無理に奮い立たせた心はまた、みるみる落ち込んでいく。
ドライフラワーにしたところで、袴田課長がたまに訪れるこの部屋に、飾れる場所なんてない。

「いま、だけでも、大事にしよう」

あるだけのグラスを出して、薔薇を生けていく。
それを部屋だけじゃなく、浴室にもトイレにも飾った。

「神月さんが、部屋にいっぱいだ……」

でもなんで、心はまたこんなに空っぽなんだろう。
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