鎖から放たれた蝶々は美しく羽ばたく
昨日、神月さんが溢れるほど満たしてくれたのに。

「あ、テレビでも、観よう」

淋しさに飲み込まれないうちにリモコンのスイッチを押す。

『女の子はみんな、お姫様ですよ』

画面の中では神月さんが誰をも魅了する笑顔で笑っていた。

『えっ、だってあんなに可愛い生き物、他にいませんよ。
皆さんだってそう思うでしょう?』

再放送されているその番組のテーマは、理想の女性、のようだった。

『僕にとって女の子はみんな、可愛いお姫様です。
誰かひとりを選ぶとしたら……そうだな。
一番、頑張っている子がいいかな』

「一番、頑張っている子……」

私は、頑張ってなんかない。
仕事は努力しているがプライベートはこのとおり、ダメダメだ。
嫌なくせに、袴田課長をはっきりと拒絶しない怠け者。
こんな人間、神月さんが好きになってくれるはずがない。

「……私には初めから、神月さんに好きなってもらえる、資格がないんだ……」

ううん、神月さんだけじゃない。
誰にも、好きになってもらう資格がない。
好きでもない男に抱かれ、嫌だと言うのが怖くて……ううん。
嫌だというのが怖いんじゃない。
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