鎖から放たれた蝶々は美しく羽ばたく
決まりのように一番前のドアから乗ったら、上司の袴田課長が待っていた。
彼は私を、名字の石野ではなく、名前で呼ぶ。
それは、仕事中も変わらない。
「おはようございます」
周囲を少しだけ見渡し、課長は私の前へガードするように立った。
「今日は大丈夫そう、だな」
「……いつもすみません」
申し訳なくて身体を縮こませる。
少し前から痴漢……なのかはわからないけど、不審な人に困っていた。
いつも私の隣に立ち、電車が揺れるタイミングで身体をぶつけてくる、普通のサラリーマン風の少し年上の男性がいるのだ。
凄く真面目な風貌で、最初は気にしていなかった。
でも、あんまり頻繁で袴田課長に相談したら、次の日から一緒に通勤してくれている。
そしてその日から被害に遭わなくなったとなれば……そういうことなのだろう。
「……」
いつも俯いている視線を少しだけ上げたら、吊革に掴まる課長の左手が見えた。
そこには既婚者の証が光っている。
結婚したのはほんの三ヶ月前、新婚ほやほやだ。
その現実から目を逸らしたくて、視線を外す。
その先には吊り広告があった。
彼は私を、名字の石野ではなく、名前で呼ぶ。
それは、仕事中も変わらない。
「おはようございます」
周囲を少しだけ見渡し、課長は私の前へガードするように立った。
「今日は大丈夫そう、だな」
「……いつもすみません」
申し訳なくて身体を縮こませる。
少し前から痴漢……なのかはわからないけど、不審な人に困っていた。
いつも私の隣に立ち、電車が揺れるタイミングで身体をぶつけてくる、普通のサラリーマン風の少し年上の男性がいるのだ。
凄く真面目な風貌で、最初は気にしていなかった。
でも、あんまり頻繁で袴田課長に相談したら、次の日から一緒に通勤してくれている。
そしてその日から被害に遭わなくなったとなれば……そういうことなのだろう。
「……」
いつも俯いている視線を少しだけ上げたら、吊革に掴まる課長の左手が見えた。
そこには既婚者の証が光っている。
結婚したのはほんの三ヶ月前、新婚ほやほやだ。
その現実から目を逸らしたくて、視線を外す。
その先には吊り広告があった。