鎖から放たれた蝶々は美しく羽ばたく
それ以上は質問の声も上がらず、そのまま会議は進んでいく。

「で、モデルの話なんだが。
男性で進めているがいいんだな?」

袴田課長が改めて確認する。
男性ものでない限り、宣伝に男性モデルの起用は珍しい。

「男性でしょう、この場合」

うん、うん、と頷いているのは国元(くにもと)チーフ。
このチームのナンバーツーだ。

「わかった、それで手配しておく。
じゃあ、今日はこれで終わりということで」

袴田課長の声をきっかけにして、一気にみんな散っていく。

「男性モデル、か……」

消されようとしていたホワイトボードの文字が、なぜか目に留まった。

「お疲れ様でしたー」

今日は急ぎの仕事もないし、定時で上がる。

……うん。
定時で上がれる方が珍しいから、大事にしたい。
だって。

『チョーコ、ごめん!
ちょちょっと、ちょちょっと、このPOPのデザイン、してくれ!』

なんて、袴田課長がしょっちゅう、人に仕事外の依頼をしてくるから。

……嘘です。
私の業務外だけど、袴田課長のお願いだし……とやっていたら、しっかりその分の報酬がお給料に乗っていた。
あの人は侮れない。

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