鎖から放たれた蝶々は美しく羽ばたく
「……冷たいの、美味しい……」

気のせいだとは思うが、それだけで熱が少し下がった気がした。

残ったものを冷蔵庫へしまい、買ってきてくれた薬を飲む。
ついでに、汗を掻いたパジャマも着替えた。

「……袴田課長は優しい、……けど」

うとうとと、今度は穏やかな眠りに落ちていきながら、彼とのいままでを思いだしていた。



私が彼に出会ったのは二年前、二十五歳のときだった。
デザインの専門学校を卒業した私は、小さな印刷会社でデザインの仕事をしていた。
そのとき、下請けの下請けで回ってきたのが、ルーナ化粧品のパッケージデザインだ。
といっても、子会社のプチプラコスメだったが。

「石野。
ルーナ化粧品の課長さんがお前に話があるそうだ」

上司に呼ばれてそう言われたときは、心臓が縮み上がった。
大元のクライアントから話なんて、なにか重大なミスがあったに決まっている。
戦々恐々で応接室へ入った途端、袴田課長はこう言った。

「君、明日から俺の部下ね」

「……は?」

不躾にも、彼を珍しいものでも見るかのように凝視した私に罪はないと思う。

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