鎖から放たれた蝶々は美しく羽ばたく
「俺としては石野に残ってほしい。
が、相手はあのルーナ化粧品さんだ。
お前が転職するというなら、祝福して送りだそう」

「あ、えと、ありがとう、ございます」

上司はとりあえず話を聞いて決めたらいいよ、と明日の休みをくれた。
この時点で私まだ、事態を把握していなかった。

家に帰り、言われたとおりの書類を揃える。

……が。

「今日の明日でポートフォリオ作るの、無理……」

だいたい、なにを求められてヘッドハンティングされたかのすらわからないのだ。
手探りの作業は深夜まで続き、朝は眠い目を擦りながらチェーンの印刷サービス店へ飛び込んだ。

からかわれていたんじゃないかとドキドキしながら訪れたルーナ化粧品だが、すんなりと受付で十二階の商品開発部へ行けと言われた。

「……」

通された会議室で相手が来るまで待つ僅かな時間、暑いわけじゃないのにじっとりと汗を掻いてくる。

「わるい、わるい。
待たせちゃってー」

入ってきたのは昨日会った袴田課長と、彼よりも少し若めの女性だった。

「じゃあ、書類ちょうだい?」

「よろしくお願いします」

渡した封筒を開けることなく、彼が隣に座る女性へ渡す。

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