鎖から放たれた蝶々は美しく羽ばたく
「なんか、気に障ることだったんならあやまる」

私を強制的に椅子へ座らせ、視線をあわせてきた彼はどこまでも真剣だった。

「あの、えっと」

いままでそんなふうに言ってもらったことがなくて、みるみる視界が滲んでいく。
いつもみんな、鼻白むかキレれるかなのに。

「ん?」

前にしゃがみ、彼は優しい笑顔をたたえて私が話すのを待っている。
その顔を見たら、私の秘密をこの人になら話していい、という気になった。

「私、顔に傷があって」

眼鏡を外し、前髪の下へ手を入れる。
これを人目にさらすのは随分ひさしぶりだ。
この前は……いつだっけ?
もう、思いだせないくらい、人には見せていない。
ゆっくりと前髪を上げてあたまの上で押さえる。

「これを見られたくないから、前髪は切れないんです……」

額の左側に残る、大きな火傷の痕。
これを見られるのが嫌で、いつも前髪で隠していた。
それを見た途端、袴田課長と国元さんが息を飲む。

……ああ、この人たちもみんなと同じ台詞を吐くんだ。
〝可哀想〟って。

わかっていたけれど、それでももう傷ついている自分がいる。

――けれど。

「……もう、いい」

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