鎖から放たれた蝶々は美しく羽ばたく
きちんと、仕事として。
助けてくれた恩人ではあるけれど私は彼にそんな感情はないこと、彼から一方的にされたことを話すと、それ以上はなにも言われなかった。
いや、反対にどうして用もない神月さんが会社のいたのか訊かれなかったのが気になる。

戻った自分の席からは袴田課長のバッグはなくなっていた。
もう終業時間が迫っていたが、神月さんのおかげで今日の予定がこなせていないので、仕事を再開する。

「……チョーコ。
さっきはごめん」

八時を回り、そろそろ帰ろうかと思っていたら、背後から回ってきた手が胸を滑り落ち、私を抱き締める。

「……怒ってない、ので」

服の上から彼――袴田課長が私の胸を揉みしだいた。
私たち以外、誰もいない部内、次第に荒くなっていく吐息が響く。

「なあ。
仲直り、する、だろ」

「あっ」

ねっとりと耳を舐め上げられ、甘い声が漏れた。

「……今日、奥さん、は?」

「泊まりで出張」

「わかった、ので」

私の返事で彼が離れる。
手早く帰り支度をし、一緒に会社を出た。

「――まで」

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