鎖から放たれた蝶々は美しく羽ばたく
乗ったタクシーで袴田課長が告げたのは、彼ら夫婦が暮らすマンションがある場所だった。

「……チョーコ」

玄関を入った途端、待ちきれなかったかのように唇が重なる。

「神月とのキスは俺より気持ちよかったのか」

再び重なった唇は深く、唇を割って舌が侵入してきた。
くちゅり、くちゅりと水音を立てながら、彼が私の口腔を征服する。
ずっ、と音がするほど根元から強く舌を吸い上げ、彼が離れた。
心細げに宙に残された私の舌は、私の心のようだ。

手を引かれ、寝室へと連れていかれる。
ベッドに座り、ジャケット脱いでネクタイを外す彼をただ見ていた。
彼はよく、ここで私を抱く。
夫婦の営みがおこなわれる、このベッドで。

「……眼鏡」

指摘され、かけたままだった眼鏡を外してサイドテーブルへ置く。
彼がベッドへ上がり、私も黙って横たわった。

「ごめんな、チョーコ。
今日はあんなことして」

「ん」

短い口付けを繰り返しながら、袴田課長が私の服を脱がしていく。

「でも、チョーコも悪いんだぞ。
神月とキスしたりするから」

「いっ!」

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