鎖から放たれた蝶々は美しく羽ばたく
けれど、この名前のつけられない関係は次第に私の心を蝕んでいく。
結婚すると聞いたときは、これでこの関係は終わりなのだとほっとした。

――なのに。

『結婚してもチョーコとの関係は、変わらないからな』

さも当たり前のように言われたときは、どうしていいのかわからなかった。
終われるのなら終わりたい。
でも――でも。

身体だけの関係でも愛される喜びを知ってしまった私は、ひとりになるのが怖くなった。
これからさらに地獄が待っているのがわかっているのに、その手を振り払えなかった。
こうして名前のない曖昧な関係には〝不倫〟という名が与えられ、彼が結婚したいまでも続いている。

「あっ、ああっ」

私の感情などにかまわず、身体はルーティンで機械的に絶頂を迎える。

「あっ、うっ」

短く呻き、袴田課長が私の中で果てる。
子供など欲しくない癖に。
そして私も妊娠が怖い癖に病院へ行くのが恥ずかしくて、ピルも飲んでいない。

シャワーを借りて身体を洗い流す。
使うのは奥さんが使っているシャンプーやボディーソープだ。

「……」

私では買えない、高級な価格帯のそれに複雑な気分になった。
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