鎖から放たれた蝶々は美しく羽ばたく
彼女は我が社トップクラスの美容部員で、日本中を飛び回っている。
当然ながらこの傷がなかったとしても私なんて霞むほどの、美女だ。

「食うだろ」

浴室を出たら袴田課長がピザを取ってくれていた。
さらに冷やした白ワインまで開けてくれる。

「チョーコの好きなジャーマンベーコン、取ってあるぞ」

「ありがとう、ございます」

ぎこちなく笑いながら、その隣に腰を下ろした。

「でもチョーコにキスしてくるなんて、神月はいったい、なにを考えているか」

「……そう、ですね」

私と仲直りできたと思って、袴田課長はご機嫌にグラスを傾けている。

「またそんなことされたら困るからな。
アテンドの話、考えないとな」

「……そう、ですね」

もそもそとピザを口へ詰め込む。

「チョーコも飲めよ」

「……そう、ですね」

さっきから私が同じ返事を繰り返しているのに、彼は気づいていない。
そういう人だからいまだに私を縛り、関係を続けられる。

「……それじゃあ」

「ああ、これ」

財布から一万円札を抜いて渡してくれる。
ドアが閉まり、握りしめた手の中でそれが、ぐしゃりと乾いた音を立てた。

「……」
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