鎖から放たれた蝶々は美しく羽ばたく
マンションを出て彼の部屋を見上げる。
温かい、電気の灯るあそこに、私の居場所はない。
タクシー代はもらったが、駅までの道を歩いた。
彼との関係を振り払うように、足はどんどん速くなっていく。
終わりなど、きっとこないのに。
――ピルルルルルルルッ!
発車ベルの鳴りはじめた電車に飛び乗ると同時に、ドアが閉まった。
「はぁ、はぁ」
暗い窓ガラスに、私の顔が映る。
傷を隠す、緞帳のように分厚く長い前髪。
表情の死んだ、顔。
そこにのるのは不釣り合いな、可愛い苺チョコの眼鏡。
「……私は神月さんに好きになってもらえるような人間じゃない」
こんなことをしていると知れば、神月さんだけじゃなく、国元さんだってみんな、私を蔑むだろう。
なのに、やめられない自分がいる。
「……私はどう、したいんだろう……」
袴田課長とキスをしても、もう嬉しくなかった。
けれど神月さんとのキスには少しだけ――ドキドキと心臓が高鳴ったのだ。
「……でも」
袴田課長に依存している私は、彼から離れられない。
彼も私を、離してくれない。
私は……。