鎖から放たれた蝶々は美しく羽ばたく
ドアが閉まる際、神月さんを敵意に満ちた目で睨んでいる袴田課長が見えた。

少し歩き、幹部の方たちがよく利用しているフレンチのお店へ、私の腕を掴んだまま神月さんは入った。

「あのー……」

「ん?」

メニューから顔を上げ、僅かに彼が首を傾げる。

「……なんでもない、です」

でも結局、なにも言えなくてメニューへ視線を戻した。

……なんで神月さんがまた、会社にいたんだろ。

なんて考えたところで、答えは出ない。

「決まったかい?」

「えっ、あっ、あの」

ちらちらと彼の顔を見ていただけで、メニューなどほぼ見ていなくて慌ててしまう。

「今日のランチコースでいいかな。
嫌いなものや食べられないものがないなら」

ふふっ、と彼が小さく笑い、途端に顔が熱くなる。

「……はい、それでお願いします」

「うん、わかった」

メニューを閉じ、彼は軽く手を上げて店員を呼んだ。

料理が出てくるまでの時間、黙っているのには耐えられなくて、必死に話題を探す。

「苺チョコちゃんと一緒にお昼が食べられるなんて、ラッキーだったな」

ふわっと柔らかく彼が笑い、みるみる頬が熱をもっていく。
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