鎖から放たれた蝶々は美しく羽ばたく
その顔を見ていられなくて視線を逸らし、グラスを口へ運んだ。

「……どうして今日は、スーツなんですか」

モデルの彼が仕事以外で、スーツを着ることなどないはず。
それもお洒落着こなしではなく、完璧なビジネススタイルなどと。

「似合わないかな?」

少しだけ心配そうに、眼鏡の下で彼の眉が寄る。
それにううん、と勢いよく首を振った。
ぴったりと身体に沿う三つ揃えのスーツは彼のスタイルのよさを引き立てる。
それでビジネススタイルに髪をセットし、さらに銀縁の眼鏡をかけていて、勝手に目が奪われた。
実際、店にいる客どころか、店員の視線すら彼に集中していた。

「なら、よかった」

満足げに頷き、彼はそれ以上、口を開かなかった。

黙々と出てきた料理を口へ運ぶ。

「今度の土曜はオフなんだ。
苺チョコちゃんとお出掛けしたいな」

「……」

意味がわからなくて、まじまじと彼の顔を見ていた。
私と出掛けたいとはいったい、どういうことなのだろう。

「映画もいいけど、それだとあまり苺チョコちゃんの可愛い顔を見られないな」

私の困惑をよそに、彼はひとりで予定を立てている。

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