鎖から放たれた蝶々は美しく羽ばたく
なんて見出しが躍る週刊誌を想像してしまい、ぶるりと身体が震える。

「ああ。
それに関しては心配いらないよ。
だって僕は……そういうことに、なっているからね」

完璧な角度で口角をつり上げて笑った彼は美しかったが、完全に胡散臭かった。

……そういうこと、とはどういうこと?

などと私が考えたところで、わかるはずがない。
そういえば女優の綾島(あやしま)礼香(れいか)が狙っているという噂もあったが、神月さんは彼女と共にワイドショーを賑わしたことがなかった。
彼女と噂になった男性は必ず、その数週間後には深夜の密会だなんだと話題になるのに。
これも、そういうこと、なんだろうか。

「だから苺チョコちゃんはなんの心配もなく、僕の家に来るといいよ」

それはもう、決定事項なんだろうか。
私はまだ、行くともなんとも返事をしていないのに。

「あの、でも、私は……」

必死に、断る口実を探す。
けれど。

「他になにか、問題があるのかな?」

「うっ」

にこにこ笑って神月さんは私を見ている。
しかしそのレンズの向こうにある魅力的なブラックダイヤモンドは、私に拒否を許していなかった。
< 63 / 105 >

この作品をシェア

pagetop