鎖から放たれた蝶々は美しく羽ばたく
それにもし、私がなにかしらの問題を口にしたところで彼は、こともなげに看破してしまうだろう。

「ああ、僕の家の場所がわからないか。
なら、迎えにいくよ。
これで問題はすべて解決だ」

満足げに彼が頷く。
私には問題ばかりにしか思えないのだが。

神月さんひとりが有意義な時間になったランチが終わる。

「あの、支払いは……?」

会計などなにもせずに店を出たが、止められるどころかまたお越しくださいと送りだされた。
食事の最中、神月さんが先払いしていたとかもない。
私はお化粧直しで中座、とかしていないので間違いないはず。

「ん?
そういうもの、なんだよ」

ふふっ、と彼がおかしそうに小さく笑う。
トップモデル、という以上に、神月さんは謎すぎる。

彼は会社まで、私を送ってくれた。

「じゃあまた、連絡するね。
苺チョコちゃん」

両手をスラックスのポケットに突っ込んだままその高い背を窮屈そうに折り曲げ、顔が近づいてきたところで、はっ、と気づく。
前回これで、大変なことになったのだ。

「キ、キスは禁止……!」

すんでのところで彼の顔を手で押さえる。
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