鎖から放たれた蝶々は美しく羽ばたく
「えー。
僕は苺チョコちゃんとキスしたいのにー」

唇を尖らせて拗ねられたら、いいよ、なんて言いそうになっちゃうけど……ダメなもんは、ダメだ。
流されそうになっている自分を振り払おうと、首を二、三度振った。

「でもさ。
キスは禁止ってことは、それ以外はいいんだよね……?」

「ふぁっ!?」

耳もとで、艶のこもった声で囁かれ、変な声が漏れる。

「……耳、弱いの?」

「ふぁっ、あっ」

わざとぼそぼそと喋り、耳に熱い吐息をかけてくる。
真っ昼間、しかも会社の玄関ホール、通り過ぎる人はちらちらとこちらへ視線を向けた。

「もーっといろいろしたいけど……」

耐えられなくて、じわじわと涙の浮きはじめた目で抗議をする。
けれど彼には全く、効いていなかった。

「……苺チョコちゃんのエッチな顔は、僕だけのものにしておきたいからね。
ここではやめておくよ」

「あ……っ!」

ちゅっ、と耳朶に口付けして彼が離れる。
目のあった彼はその先、を想像させるように自身の唇を舐めた。

「じゃあねー、苺チョコちゃん。
土曜日にー」

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