鎖から放たれた蝶々は美しく羽ばたく
自分自身は私と不倫だなんてしている癖に。

「……嘘つけ」

後ろから下りてきた手が、私を抱き寄せる。

「……こんなに、神月のにおいをプンプンさせてか?」

彼の手が私を後ろへと向かせる。
ギリギリと握り潰さんばかりに掴まれた、頬が痛い。

「トップモデルに言い寄られて、いい気になっているのか」

「……違う」

醜く歪む彼の顔を、ただ見ていた。

「あんな、住む世界が違う奴が、チョーコを理解してやれるわけないだろ」

「……そんなこと、ない」

あの人は顔に傷が残ったら可哀想と言われ、拒絶した私に少なくともあやまってくれた。

「チョーコを理解してやれるのは俺だけだ」

「……違う」

ぼそぼそと呟くように言う私の声は、袴田課長に届いていない。
彼の唇が重なり、強引に舌をねじ込まれる。
求められても、返せなかった。

「……チョーコ?」

唇が離れ、心配そうに袴田課長が私の顔をのぞき込む。

「あ、えと。
ちょっと体調、悪くて」

慌てて笑って誤魔化した。
言えば終わりなのに。
あなたとキスしてももう、嬉しくないのだと。

「そうか。
じゃあ今日は、無理そうか?」

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