鎖から放たれた蝶々は美しく羽ばたく
「……あっ」

彼がジーンズの上から足の間を押す。
それは私に、すでに濡れているのだと自覚させた。

「……私は神月さんを、好きなわけではないので」

それで、失敗した。
あの人は私が好きじゃなくても、私が好きならそれでいい。
でもそんなのは間違っていた。
だからずっと、苦しみ続けている。
神月さんと彼とは立場が反対だが、でもまた間違えるわけにはいかない。

「……そっか」

怒鳴られるのか、それともそれでも関係を強引に結ぼうとするのか身がまえる。
けれど、神月さんは淋しげに笑っただけだった。

「そうだよね、好きでもない人に抱かれるのは、嫌だよね」

自分の肩に私のあたまを預け、彼は背中を慰めるかのようにぽん、ぽん、と軽く叩いた。

「ごめんね、ちょっと急ぎすぎた。
許してくれるかな」

ぎゅーっと私を抱き締める神月さんから、とくん、とくん、と心細げな心臓の音が響いてくる。

「あ、えと、……はい」

彼は自由人だが、悪い人ではない。
それだけは、わかる。

「あー……。
そういえば、触れられるのも嫌だったんだよね。
なのにこんなのは許してもらえないかな?」

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