鎖から放たれた蝶々は美しく羽ばたく
とか言いつつ、彼が私を抱き締める腕はちっとも弛まない。

「あ、……大丈夫、です」

ふわり、と彼のつけている香水の匂いが私の鼻腔をくすぐる。

……いい匂い。

それになんだか、彼の腕の中は居心地がよかった。

抱きしめたまま、神月さんは私を離さない。

「あとこれは、本当に気に障ったらごめん。
苺チョコちゃんは顔に……傷が、あるのかな?」

瞬間、びくんと肩が大きく跳ねた。
身体を離し、おそるおそる彼を見上げる。

「さっき、ちらりと見えたんだ。
ここに、傷があるの」

とんとん、と長い人差し指が自分の額の左側を叩く。
そこはまさしく、私の傷がある場所だった。

「あっ……。
いや、ですよね。
顔に傷のある女なんて」

みるみる顔は俯いていく。
でもこれで、神月さんが私から離れてくれるなら、それでいい。

「んー」

少し考えた彼は、私の前髪の上からそこへ口付けを落とした。

「知り合いのモデルの子がさ。
事故で足に大きな傷痕が残っちゃったんだ」

彼はいったいなんの話をしているのかわからないが、黙って聞いていた。
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