鎖から放たれた蝶々は美しく羽ばたく
「すごーく、落ち込んでた。
モデル生命終わりどころか、もう短いスカートも穿けない、って」

確かにモデルが怪我など、私になんか想像できないくらい大変なことだろう。
でも、それが?

「けどさ。
その傷痕を活かすようにして、キュートなタトゥーを入れたんだ。
それからはその傷痕が好きになったし、足も堂々と出せるようになったって笑っていたよ。
いまではちゃんと、モデルも続けてる」

「……はい」

「だからさ」

彼の手が、私の前髪へ触れる。

「苺チョコちゃんもこんな傷で、落ち込まなくていい。
きっと、仲良くなれるよ」

前髪が払われ、傷痕を露わにされた。
それを見た彼が眼鏡の下で目尻を下げて、にっこりと笑う。

「蝶々みたいで可愛い傷だね」

ちゅっ、と彼の唇がそこへ触れた。

「あ……」

神月さんの言葉が、私の心を満たしていく。
ずっと、ずっと私が欲しかった言葉。
両親も、袴田課長だってくれなかった。

でも、彼は――。

収まりきれなかった分が、涙になって私の頬を転がり落ちていく。

「苺チョコちゃん?」

突然、私が泣きだし、神月さんは若干、慌てていた。

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