鎖から放たれた蝶々は美しく羽ばたく
「もしかしてこんなことを言われるのは嫌だったかい?
なら、あやまるから……」

「……嬉しい、ので」

泣きやまなければ、とは思うものの、初めて満たされた心は蛇口を緩くし、涙を流し続ける。

「ずっと誰かに、そう言ってほしかったから」

「……そうか」

神月さんが自分の胸へ私の顔を押しつけた。
それでますます蛇口は不調になり、とうとう声を上げて泣いた。
誰も理解してくれなかった、私がこの傷を、名前と同じ蝶みたいで気に入っているだなんて。

『女の子の顔に傷が残って可哀想』

そう言われ続け、これは可愛いなんて思っちゃいけないんだと思い知った。
まんがやアニメでは男性キャラの顔の傷が格好いい、って言われているのに、現実、しかも女の子は許されないなんて納得できなかったが、そうするしかなかった。

家族は私に可哀想だと言い続け、申し訳なさそうにする。
そのせいで息が詰まり、本当に息ができなくなって過呼吸の発作を起こすようになった。
それで心療内科のお世話になったが、そこでも医師にもカウンセラーにも、可哀想だなんて言われたくない、私はこの傷が好きなのだと言えなかった。
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