悪役だった令嬢の美味しい日記
プロローグ
風が少し肌寒く感じるようになり、空には鱗雲が漂っている。ほっくほくの焼き芋の様に黄色く染まった樹々が並ぶ広々とした庭の中央に建つ屋敷の一角から、今日も美味しい話で盛り上がる声が聞こえてきた。
「お嬢! 今日は何作るんです?」
「フフフ……今日は、とれたてホヤホヤの新鮮なこれ!」
ジャーン!と効果音がつきそうな出し方で、侍女のニナに用意してもらった紫色の芋を台へ乗せる。そう、あの秋の味覚。
「これってーと、 アマイモっすか?」
顎に手を当てながら、どう料理するのか考え始めたヤン。日本で多くの種類がある薩摩芋は、この世界ではどの薩摩芋も纏めて「アマイモ」って言う。まあ、甘い印象は同じだからわかりやすいよね。
また、ここでの一年は480日と長く、四季もありそれぞれ約四月ずつになるため、旬や収穫時期も長めで美味しいものを長く味わえる。……ちょっと嬉しい誤算だった。
「そうよ! これで美味しい秋のスイーツ作るんだから! あとおかずにもおやつにもなる アレとね!」
えっへん!と腰に手を当て胸を反り、自慢げに話すのは薄い黄色のエプロンに身を包んだ私、レティシア。一応、我が国ローズの四公爵家の一つ、西のペッシャール家の令嬢だから厨房には普通入らないんだけどね。使用許可をもぎ取るのに両親を説き伏せる事半年、胃袋を掴むのに数日。漸く使えるようになってからは、毎日のように空いた時間は厨房へ籠って早八年。もうすぐ国立学院へ入学になるので、厨房籠りの時間が減ってしまう。せっかく使えるようになったのに……貴族の義務だからって面倒だわ。
それでも家から通うから、毎日とは言わずも週末だけでも――と我が相棒ヤン兄さんは言ってくれてるから、週末を楽しみにすることにしよう! あ、勿論実の兄ではないよ! ヤンは厨房の兄貴分だからね! 私も心の中で呼んでるの……使用人だから普段は呼べないしね。
半年後に想いを馳せながらも、手はしっかりアマイモを一口大に切ってますよ。ヤン兄さんとニナにも手伝ってもらって、半分を一口大に切って水にさらし、半分は湯を張った蒸し器で皮付きのまま蒸していく。あ、もちろん綺麗に土を落としてからね!
他の料理人は今日の夕食準備中のため、私が作る物に毎度興味津々な料理長と甘いもの大好き私付き侍女に今日も手伝ってもらってるの。大体は私だけか、手が空いてたらヤンが手伝い口実に食べに来てるけど。今日は、屋敷の皆に秋のお裾分けだからね! 流石に一人じゃ無理です。
蒸した方は少し冷まして、触れるくらいになってから熱いうちに皮を剥いていく。その間に、ヤン兄さんに水にさらしたアマイモを丁寧に水を切ってもらって、二度あげをお願いする。
「一回目は160度で五分くらいかな、二度目は180度でカリッとするまで揚げてね!」
「二回……揚げるんすか? お嬢」
不思議そうに指示を聞くヤン兄さんに頷いて、皮むき作業を続ける。
この世界は、ある程度の知識は地球と同じだが、全く同じではない。昔、地球から 良き隣人として招かれた人たちが教えて残ったもの、残らなかった物があるから。例えば、こちらに揚げ物はあるが、二度揚げはないとか。味噌汁はあるが、味噌を使った焼き物等の料理はないとか。
簡単な調理法は残っているし、調味料や食材等、名前は違えど伝わってはいるので一通り揃う。しかも、所謂『剣と魔法の世界』で、魔導具が発展しているため、便利な調理器具多め。おかげで今、油の温度も測れちゃってるのでありがたい。
あ、味噌汁は庶民の家庭料理らしく、高位貴族の食卓には上がらない。……いや、食べたすぎて厨房の賄いにお邪魔した過去はあるけどね? 出汁とってなかったから、出汁の取り方を教えた代わりに頂いただけ……ということにしておいた。うちの領地は海の街だから、海産物はいっぱいあるし。出汁のおかげで領地内はすこーしだけ潤ったから、いいよね? あ、お味噌汁飲みたくなってきた……。
閑話休題。
一度目の揚げが半分ほど出来上がる頃に、残りの皮も剥き終えたので、潰しながら溶かしバターと砂糖を入れて練っていく。今回は量が多いので、簡単バージョン。プレゼント用なら生クリームを少し加えて濾したほうが、より滑らかな仕上がりになるよ!
綺麗に混ざり切ったら、ボールを押さえてくれていたニナにも手伝ってもらって形を整える。スイートポテトの形って紅葉した木の葉みたいで、秋が手元に降ってきたように感じるから好きなんだよね。
できた木の葉たちを天板に並べて、地球で言う鶏にあたるコッコの卵の黄身を表面に塗って、焼き色がつくまで焼いていくともう出来上がり!
ちょうどオーブンへ並べたところに、二度揚げが終わったヤン兄さんが合流。こっちは後、ソース作って絡めるだけであっという間に大学芋の出来上がり! 胡麻が今日仕入れた分になかったけど、無くてもいいか。私はどっちかっていうと胡麻なし派だし。
そういえば、初めて厨房に立ちたいと強請ったのも芋だったな……確か、無性にポテサラが食べたくなったんだよね。こっちのポテサラは ポテサラではないんだよ……私的には。美味しいんだけどね。
今日の厨房は、甘くホッとするようないい匂いが漂っていた。スイートポテトの焼き上がりを待ちながら、黄金色に輝く大学芋の試食を始めた。カリッといい音の中はほっくほくで、アマイモの優しい甘さとソースの甘塩っぱさが口いっぱいに広がった。
「お嬢! 今日は何作るんです?」
「フフフ……今日は、とれたてホヤホヤの新鮮なこれ!」
ジャーン!と効果音がつきそうな出し方で、侍女のニナに用意してもらった紫色の芋を台へ乗せる。そう、あの秋の味覚。
「これってーと、 アマイモっすか?」
顎に手を当てながら、どう料理するのか考え始めたヤン。日本で多くの種類がある薩摩芋は、この世界ではどの薩摩芋も纏めて「アマイモ」って言う。まあ、甘い印象は同じだからわかりやすいよね。
また、ここでの一年は480日と長く、四季もありそれぞれ約四月ずつになるため、旬や収穫時期も長めで美味しいものを長く味わえる。……ちょっと嬉しい誤算だった。
「そうよ! これで美味しい秋のスイーツ作るんだから! あとおかずにもおやつにもなる アレとね!」
えっへん!と腰に手を当て胸を反り、自慢げに話すのは薄い黄色のエプロンに身を包んだ私、レティシア。一応、我が国ローズの四公爵家の一つ、西のペッシャール家の令嬢だから厨房には普通入らないんだけどね。使用許可をもぎ取るのに両親を説き伏せる事半年、胃袋を掴むのに数日。漸く使えるようになってからは、毎日のように空いた時間は厨房へ籠って早八年。もうすぐ国立学院へ入学になるので、厨房籠りの時間が減ってしまう。せっかく使えるようになったのに……貴族の義務だからって面倒だわ。
それでも家から通うから、毎日とは言わずも週末だけでも――と我が相棒ヤン兄さんは言ってくれてるから、週末を楽しみにすることにしよう! あ、勿論実の兄ではないよ! ヤンは厨房の兄貴分だからね! 私も心の中で呼んでるの……使用人だから普段は呼べないしね。
半年後に想いを馳せながらも、手はしっかりアマイモを一口大に切ってますよ。ヤン兄さんとニナにも手伝ってもらって、半分を一口大に切って水にさらし、半分は湯を張った蒸し器で皮付きのまま蒸していく。あ、もちろん綺麗に土を落としてからね!
他の料理人は今日の夕食準備中のため、私が作る物に毎度興味津々な料理長と甘いもの大好き私付き侍女に今日も手伝ってもらってるの。大体は私だけか、手が空いてたらヤンが手伝い口実に食べに来てるけど。今日は、屋敷の皆に秋のお裾分けだからね! 流石に一人じゃ無理です。
蒸した方は少し冷まして、触れるくらいになってから熱いうちに皮を剥いていく。その間に、ヤン兄さんに水にさらしたアマイモを丁寧に水を切ってもらって、二度あげをお願いする。
「一回目は160度で五分くらいかな、二度目は180度でカリッとするまで揚げてね!」
「二回……揚げるんすか? お嬢」
不思議そうに指示を聞くヤン兄さんに頷いて、皮むき作業を続ける。
この世界は、ある程度の知識は地球と同じだが、全く同じではない。昔、地球から 良き隣人として招かれた人たちが教えて残ったもの、残らなかった物があるから。例えば、こちらに揚げ物はあるが、二度揚げはないとか。味噌汁はあるが、味噌を使った焼き物等の料理はないとか。
簡単な調理法は残っているし、調味料や食材等、名前は違えど伝わってはいるので一通り揃う。しかも、所謂『剣と魔法の世界』で、魔導具が発展しているため、便利な調理器具多め。おかげで今、油の温度も測れちゃってるのでありがたい。
あ、味噌汁は庶民の家庭料理らしく、高位貴族の食卓には上がらない。……いや、食べたすぎて厨房の賄いにお邪魔した過去はあるけどね? 出汁とってなかったから、出汁の取り方を教えた代わりに頂いただけ……ということにしておいた。うちの領地は海の街だから、海産物はいっぱいあるし。出汁のおかげで領地内はすこーしだけ潤ったから、いいよね? あ、お味噌汁飲みたくなってきた……。
閑話休題。
一度目の揚げが半分ほど出来上がる頃に、残りの皮も剥き終えたので、潰しながら溶かしバターと砂糖を入れて練っていく。今回は量が多いので、簡単バージョン。プレゼント用なら生クリームを少し加えて濾したほうが、より滑らかな仕上がりになるよ!
綺麗に混ざり切ったら、ボールを押さえてくれていたニナにも手伝ってもらって形を整える。スイートポテトの形って紅葉した木の葉みたいで、秋が手元に降ってきたように感じるから好きなんだよね。
できた木の葉たちを天板に並べて、地球で言う鶏にあたるコッコの卵の黄身を表面に塗って、焼き色がつくまで焼いていくともう出来上がり!
ちょうどオーブンへ並べたところに、二度揚げが終わったヤン兄さんが合流。こっちは後、ソース作って絡めるだけであっという間に大学芋の出来上がり! 胡麻が今日仕入れた分になかったけど、無くてもいいか。私はどっちかっていうと胡麻なし派だし。
そういえば、初めて厨房に立ちたいと強請ったのも芋だったな……確か、無性にポテサラが食べたくなったんだよね。こっちのポテサラは ポテサラではないんだよ……私的には。美味しいんだけどね。
今日の厨房は、甘くホッとするようないい匂いが漂っていた。スイートポテトの焼き上がりを待ちながら、黄金色に輝く大学芋の試食を始めた。カリッといい音の中はほっくほくで、アマイモの優しい甘さとソースの甘塩っぱさが口いっぱいに広がった。
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