悪役だった令嬢の美味しい日記
間幕3
①自称ヒロインの活動録
赤毛のつり目、赤毛のつり目……あれかしら? でも、少し雰囲気が違う気がする……。あ、さっき釣れたコイツらに聞けばいっか。
「ねえ。あの赤毛の方って、どなたかしら?」
「赤毛? あぁ。西公爵家のペッシャール嬢ですね」
「お名前はレティシア様ですよ」
「そう、彼女が……。あら?お隣は?」
「彼女はヴァリエ家のクロエ様ですよ」
クロエ? 誰よ、それ。多分、取り巻きよね? 名前なしのモブなんてわからないわ。どうでもいいし。そんなことより! 悪役令嬢の横にいるイケメンの方よ! 誰なのよ⁉ なんで、そっち教えないのよコイツら。つっかえないわ。
「……そうなの。じゃあ、男性の方は?」
「だんせい? ああ!彼ですか? 彼は騎士科のバリエールですね。バリエール家のアランですよ」
「バリエール家は、代々騎士の家系です」
「まあ! 騎士様なんですね!」
待って!攻略対象の名前じゃない! なんで攻略対象と悪役令嬢が一緒にいるのよ⁉ え、もしかしてプレイヤー⁉ じゃないと一緒にいるのもおかしいわよね……ダメだわ。わかんない。コイツら、もう少し何か情報もってないのかしら。ていうかゲーム内の実物は、全然筋肉バカじゃないじゃないの‼ 画面越しだとマッチョすぎて、好みじゃなかったのよねぇ。脳筋だったし。あんなにかっこいいとかズルい!
「あ! あと、普段ですと王子殿下方やタイヤール姉妹も御一緒されていますね。今日はいらっしゃらないみたいですが」
「タイヤール姉妹?」
「ええ。タイヤール家のアメリー様とアリス様です」
何って⁉ ヒロインと悪役令嬢が一緒にいるって⁉ ダメよ……混乱してきて、コイツらの話も頭に入ってこなくなったわ。あれ? もしかしてだけど、あっちが二人一緒にいるなら本編の展開になってないってことよね? 確か、ヒロインと悪役令嬢が仲良くする展開なんて、無印にも続編にもなかったし。番外編用に出た小説だって、幼少期の話が書かれてただけで、ヒロインと攻略対象が実はその時に出会ってた――なんて書いてあったくらいだし。間違いなく『悪役令嬢との仲』は無かったわ。ファンブックの見落としなんて無いはずだし……。
よし! ヒロインが本編通りじゃないなら、マルレーヌがヒロインになってもいいわよね? せっかくゲームの中にいるんだし。わたしって天才じゃない? ヒロインっぽく、ピンクに染めてよかったわ。顔は悪いどころか良いのばかりなのに、みんな同じような髪色で目立たないしね。
じゃあまずは、何とか悪役令嬢と会わないといけないわよね……。コイツら、どうやって巻こうかしら?
「まあ! みなさま、仲がよろしいのですね! わたしもお友達になっていただけるかしら……」
「マルレーヌ様なら大丈夫ですよ! こんなにも愛らしいですし」
「きっと皆さまとも仲良くしていただけますよ!」
「でも……そうね、まずは挨拶からしてみようかしら」
「それは良いですね! ぜひ僕に紹介させてください‼」
「いえ! 私に!」
「ありがとう! でも……一人でお話してみるわ。みんなで行ったら、ご迷惑になるかもだし」
「確かに」
「そうですね。では、離れたところでま」
「なので、出来れば授業で使う席を確保していただけませんか? 知らない人たちの中で、一人で座るのは……ちょっと」
「わかりました!」
「お任せください! お取りして、お待ちしております‼」
「ありがとう! 直ぐに追いかけるわ!」
「「では、行ってきます!」」
「お願いね~」
ゲーム補正があったとしても、わたしって演技上手くない⁉ ちょっと上目遣いでお願いするだけで、動いてくれるんだもん! この容姿にこの世界、使えるわ‼ それよりも、手振ってるのも疲れるわね……アイツらもう見えない? よし!正規のヒロインじゃないから今のうちに突撃して、攻略対象に顔を覚えてもらわないと! イベントっぽく悪役令嬢に会っとこ! せっかくだし、先制攻撃しとこっかな?
「見つけたわ! 悪役令嬢レティシア‼」
ほら見なさいよ!この美しい私の髪を‼ 悪役令嬢なんて目じゃないくらい、綺麗にしているんだから! 迎えに来てくれたお父様には、感謝よね~。圧・倒・的、財力! 日本じゃこうも自由にできないけど、ゲーム内だし? 貴族っていいわね。あら、顔を見合わせて固まってるわ。わたしの可愛いらしさに見惚れたとか? いや、早速私に怖気づいたのかも? いい気味ね! 攻略対象の方は……前のめりね! やっぱりヒロインっぽい可愛いわたしに気があるのね!
「私がこの世界のヒロインのマルレーヌよ!!」
「「「マドレーヌ?」」」
「マルレーヌよ! マルレーヌ!!」
訂正。怖気づいたんじゃないわ、コイツらバカなんじゃないかしら? この可愛いわたしの名前を間違えるなんて! 許せないわ!
「それで、マヌケーヌ?さんでしたか? レティシア様を呼び捨てにされるなんて……。何か御用なの?」
「だから、マルレーヌって言ってるでしょ‼ いい? 悪役令嬢のアンタなんかには、ぜーったいに負けないんだから‼ 私がヒロインよ!」
ほんと、なんなのよ⁉ 今に見てなさいよ!悪役令嬢‼
こうして、悪役令嬢との勝手に初イベントをこなしたあと、他の攻略対象を探すも……会えない。なんで会えないの⁉ 王子様はいるけど――ちょっと怖くて遠目からしか見れない。近くに宰相の息子いるのに、王子怖くて近づけないし。魔法省筆頭の息子はいるけど、なんか名前違う。年下わんこ枠の大商会の息子は、商会に行ってもいないし。年上爽やかお兄さん枠の王弟殿下は……見る影もないくらい根暗そうな教師。しかも話しかけたら、ずーっとうじうじウジウジ。正直、めっちゃキモい。推しだったのになぁ。
そ・れ・よ・り! 私最推しのチャラ男枠の隠れ攻略対象は、留学すらしてない。嘘でしょー……会いたかったのにぃ。やっぱり、本編通りに進んでないからかしら……。しかも、引っかかるのは名前が違う魔法省筆頭の息子と貴族だけどモブなヤツだけ。なんでよ⁉
唯一構ってくれる攻略対象の騎士団長の息子は、悪役令嬢ベッタリ……。ムカつくわ‼ こうなったら、何がなんでもあの思ったよりイケメンだった騎士団長の息子を落としてみせるわ‼ せっかく『ゲームの世界』なんだから、自由に楽しんでもいいでしょうよ!
こう決意したものの、見つけてはかわされ、かわされてはポイッと外にだされ……。埒があかない‼ 構ってくれるのに、全然靡く様子ないじゃない! 大体、なんでいつも悪役令嬢の取り巻きモブと一緒にいるのよ⁉ あれ?でも、構ってくれてるってことは、少なからずも好感度が上がっているはずよね? そうじゃない⁉ あったまいいわ、わたし‼
「もう! 毎度毎度ムカつくわ、あの横のモブ‼ なんなのよ! こうなったら、アレを始めるしかないわ‼」
アレとは、ゲーム内で発生する本来夏の『花祭り』で好感度が高い攻略対象と起こる初デートイベントの事。初デートイベントで、ヒロインは小さなお願いをする。その小さなお願いがのちに国民のためになるので、するのとしないのではエンディングに大きく関わっていた。このお願いに、秋から学院生活を始めたマルレーヌは『クロエの傍から離れる』よう秋の『秋桜祭り』でアランにお願いする――つもりだった。
(なんで⁉ アランを誘ったのに、エミールたちがくるのよ⁉)
というように、当日来たのはエミールたちマルレーヌ劇団員のみだった。というのも、マルレーヌが勝手に好感度が高いと思っているアランが、面倒ごとしか持ち込まないマルレーヌを誘うはずもなく。ましてや、それを知らないマルレーヌが誘ってくれると思っていたアランを自分から誘う訳もなく――というよりただ単に誘い忘れが原因である。そんなの、誰が来るんだよ……。
ゲームの世界にいるからには、『モブ』ではなくどうしても『ヒロイン』というお姫様位置になりたいマルレーヌ。この秋桜祭りで、とりあえずこの劇団員たちを自分の『絶対的な味方』にしておこうと急遽方針を変えたのだった。だって、ゲームの中だし? 何してもいいよね?と。
「(仕方ないわ。こうなったら)エミール様! ……わたし、怖いんです」
グスンッと泣きまねをしながら、エミールやモブ貴族たちに「レティシアにやられた」と嘘を吹き込んでいく。この日マルレーヌを信じたエミールたちは、庇護欲をそそるかわいそうなマルレーヌを『姫』扱いし、自分たちの『姫』を貶めるレティシアを『悪』と認識した――ちなみに、ここまでの所要時間は一カ月ほど。
こうして、ドン引き男率いるピンク親衛隊が結成され、のちに誰が言い始めたのか『マドレーヌ劇団』がレティシアの前に立ちはだかるのであった。
「ねえ。あの赤毛の方って、どなたかしら?」
「赤毛? あぁ。西公爵家のペッシャール嬢ですね」
「お名前はレティシア様ですよ」
「そう、彼女が……。あら?お隣は?」
「彼女はヴァリエ家のクロエ様ですよ」
クロエ? 誰よ、それ。多分、取り巻きよね? 名前なしのモブなんてわからないわ。どうでもいいし。そんなことより! 悪役令嬢の横にいるイケメンの方よ! 誰なのよ⁉ なんで、そっち教えないのよコイツら。つっかえないわ。
「……そうなの。じゃあ、男性の方は?」
「だんせい? ああ!彼ですか? 彼は騎士科のバリエールですね。バリエール家のアランですよ」
「バリエール家は、代々騎士の家系です」
「まあ! 騎士様なんですね!」
待って!攻略対象の名前じゃない! なんで攻略対象と悪役令嬢が一緒にいるのよ⁉ え、もしかしてプレイヤー⁉ じゃないと一緒にいるのもおかしいわよね……ダメだわ。わかんない。コイツら、もう少し何か情報もってないのかしら。ていうかゲーム内の実物は、全然筋肉バカじゃないじゃないの‼ 画面越しだとマッチョすぎて、好みじゃなかったのよねぇ。脳筋だったし。あんなにかっこいいとかズルい!
「あ! あと、普段ですと王子殿下方やタイヤール姉妹も御一緒されていますね。今日はいらっしゃらないみたいですが」
「タイヤール姉妹?」
「ええ。タイヤール家のアメリー様とアリス様です」
何って⁉ ヒロインと悪役令嬢が一緒にいるって⁉ ダメよ……混乱してきて、コイツらの話も頭に入ってこなくなったわ。あれ? もしかしてだけど、あっちが二人一緒にいるなら本編の展開になってないってことよね? 確か、ヒロインと悪役令嬢が仲良くする展開なんて、無印にも続編にもなかったし。番外編用に出た小説だって、幼少期の話が書かれてただけで、ヒロインと攻略対象が実はその時に出会ってた――なんて書いてあったくらいだし。間違いなく『悪役令嬢との仲』は無かったわ。ファンブックの見落としなんて無いはずだし……。
よし! ヒロインが本編通りじゃないなら、マルレーヌがヒロインになってもいいわよね? せっかくゲームの中にいるんだし。わたしって天才じゃない? ヒロインっぽく、ピンクに染めてよかったわ。顔は悪いどころか良いのばかりなのに、みんな同じような髪色で目立たないしね。
じゃあまずは、何とか悪役令嬢と会わないといけないわよね……。コイツら、どうやって巻こうかしら?
「まあ! みなさま、仲がよろしいのですね! わたしもお友達になっていただけるかしら……」
「マルレーヌ様なら大丈夫ですよ! こんなにも愛らしいですし」
「きっと皆さまとも仲良くしていただけますよ!」
「でも……そうね、まずは挨拶からしてみようかしら」
「それは良いですね! ぜひ僕に紹介させてください‼」
「いえ! 私に!」
「ありがとう! でも……一人でお話してみるわ。みんなで行ったら、ご迷惑になるかもだし」
「確かに」
「そうですね。では、離れたところでま」
「なので、出来れば授業で使う席を確保していただけませんか? 知らない人たちの中で、一人で座るのは……ちょっと」
「わかりました!」
「お任せください! お取りして、お待ちしております‼」
「ありがとう! 直ぐに追いかけるわ!」
「「では、行ってきます!」」
「お願いね~」
ゲーム補正があったとしても、わたしって演技上手くない⁉ ちょっと上目遣いでお願いするだけで、動いてくれるんだもん! この容姿にこの世界、使えるわ‼ それよりも、手振ってるのも疲れるわね……アイツらもう見えない? よし!正規のヒロインじゃないから今のうちに突撃して、攻略対象に顔を覚えてもらわないと! イベントっぽく悪役令嬢に会っとこ! せっかくだし、先制攻撃しとこっかな?
「見つけたわ! 悪役令嬢レティシア‼」
ほら見なさいよ!この美しい私の髪を‼ 悪役令嬢なんて目じゃないくらい、綺麗にしているんだから! 迎えに来てくれたお父様には、感謝よね~。圧・倒・的、財力! 日本じゃこうも自由にできないけど、ゲーム内だし? 貴族っていいわね。あら、顔を見合わせて固まってるわ。わたしの可愛いらしさに見惚れたとか? いや、早速私に怖気づいたのかも? いい気味ね! 攻略対象の方は……前のめりね! やっぱりヒロインっぽい可愛いわたしに気があるのね!
「私がこの世界のヒロインのマルレーヌよ!!」
「「「マドレーヌ?」」」
「マルレーヌよ! マルレーヌ!!」
訂正。怖気づいたんじゃないわ、コイツらバカなんじゃないかしら? この可愛いわたしの名前を間違えるなんて! 許せないわ!
「それで、マヌケーヌ?さんでしたか? レティシア様を呼び捨てにされるなんて……。何か御用なの?」
「だから、マルレーヌって言ってるでしょ‼ いい? 悪役令嬢のアンタなんかには、ぜーったいに負けないんだから‼ 私がヒロインよ!」
ほんと、なんなのよ⁉ 今に見てなさいよ!悪役令嬢‼
こうして、悪役令嬢との勝手に初イベントをこなしたあと、他の攻略対象を探すも……会えない。なんで会えないの⁉ 王子様はいるけど――ちょっと怖くて遠目からしか見れない。近くに宰相の息子いるのに、王子怖くて近づけないし。魔法省筆頭の息子はいるけど、なんか名前違う。年下わんこ枠の大商会の息子は、商会に行ってもいないし。年上爽やかお兄さん枠の王弟殿下は……見る影もないくらい根暗そうな教師。しかも話しかけたら、ずーっとうじうじウジウジ。正直、めっちゃキモい。推しだったのになぁ。
そ・れ・よ・り! 私最推しのチャラ男枠の隠れ攻略対象は、留学すらしてない。嘘でしょー……会いたかったのにぃ。やっぱり、本編通りに進んでないからかしら……。しかも、引っかかるのは名前が違う魔法省筆頭の息子と貴族だけどモブなヤツだけ。なんでよ⁉
唯一構ってくれる攻略対象の騎士団長の息子は、悪役令嬢ベッタリ……。ムカつくわ‼ こうなったら、何がなんでもあの思ったよりイケメンだった騎士団長の息子を落としてみせるわ‼ せっかく『ゲームの世界』なんだから、自由に楽しんでもいいでしょうよ!
こう決意したものの、見つけてはかわされ、かわされてはポイッと外にだされ……。埒があかない‼ 構ってくれるのに、全然靡く様子ないじゃない! 大体、なんでいつも悪役令嬢の取り巻きモブと一緒にいるのよ⁉ あれ?でも、構ってくれてるってことは、少なからずも好感度が上がっているはずよね? そうじゃない⁉ あったまいいわ、わたし‼
「もう! 毎度毎度ムカつくわ、あの横のモブ‼ なんなのよ! こうなったら、アレを始めるしかないわ‼」
アレとは、ゲーム内で発生する本来夏の『花祭り』で好感度が高い攻略対象と起こる初デートイベントの事。初デートイベントで、ヒロインは小さなお願いをする。その小さなお願いがのちに国民のためになるので、するのとしないのではエンディングに大きく関わっていた。このお願いに、秋から学院生活を始めたマルレーヌは『クロエの傍から離れる』よう秋の『秋桜祭り』でアランにお願いする――つもりだった。
(なんで⁉ アランを誘ったのに、エミールたちがくるのよ⁉)
というように、当日来たのはエミールたちマルレーヌ劇団員のみだった。というのも、マルレーヌが勝手に好感度が高いと思っているアランが、面倒ごとしか持ち込まないマルレーヌを誘うはずもなく。ましてや、それを知らないマルレーヌが誘ってくれると思っていたアランを自分から誘う訳もなく――というよりただ単に誘い忘れが原因である。そんなの、誰が来るんだよ……。
ゲームの世界にいるからには、『モブ』ではなくどうしても『ヒロイン』というお姫様位置になりたいマルレーヌ。この秋桜祭りで、とりあえずこの劇団員たちを自分の『絶対的な味方』にしておこうと急遽方針を変えたのだった。だって、ゲームの中だし? 何してもいいよね?と。
「(仕方ないわ。こうなったら)エミール様! ……わたし、怖いんです」
グスンッと泣きまねをしながら、エミールやモブ貴族たちに「レティシアにやられた」と嘘を吹き込んでいく。この日マルレーヌを信じたエミールたちは、庇護欲をそそるかわいそうなマルレーヌを『姫』扱いし、自分たちの『姫』を貶めるレティシアを『悪』と認識した――ちなみに、ここまでの所要時間は一カ月ほど。
こうして、ドン引き男率いるピンク親衛隊が結成され、のちに誰が言い始めたのか『マドレーヌ劇団』がレティシアの前に立ちはだかるのであった。