悪役だった令嬢の美味しい日記
劇団が活動を始めて、早二月。もうすぐそこまで押し寄せている冬の寒さに、体が毛布を離したくなくなってきた頃。試験勉強を始めだす学生たちがちらほら出始めているが、この劇団員たちは試験勉強どころか取るはずの授業に一切出ずに過ごしていた。この世界が現実だと思っていないお姫サマ曰く、「ゲームの中だから嫌いな勉強もやらなくていい」らしい。
「はぁ~……。うまくいかないわねぇ……」
「「??」」
「どうかされましたか? 姫」
「え? ああ!何でもないのよ? (いるの忘れてたわ)……ただ、どうして『わたしばかり』なのかと思って」
あっぶな! ここのサロンって居心地良いから、コイツらいるの忘れて思わず本音が漏れるところだったわ。とりあえず誤魔化せたからいいけど。それにしても、あの悪役令嬢やってるプレイヤー、全然自分から絡んでこないじゃない! こっちが一生懸命ヒロインっぽく振舞っているのにさ。職務怠慢よね? あ、それともゲームの中だからラノベ的展開の『悪役令嬢がざまあする』方を狙っているのかしら? それなら、ヒロインと仲良くしてるのもおかしな話よね……いや、この『マルレーヌ』がヒロインだとしたらラノベみたく『ざまあ』できるものね。なるほど、そっち狙いかも。じゃないと、攻略対象たちがあの悪役令嬢やってるプレイヤー周りにいるのも納得がいかないものね。そうね、そうなんだわ! じゃあ、やっぱりわたしが『ヒロイン』として、しっかり進めないとね!
いつの間にか考え込んでいたマルレーヌは、考え込んでいる彼女のことを『虐めに悩んでいる姫』と勝手に解釈していた劇団員たちに更なる『マルレーヌ的ヒロインシナリオ』を吹き込んでいくことにした。虐めの次は、『悪い噂』を。
「きっと、姫のかわいらしさに嫉妬しているんですよ!」
「姫、落ち込まないでください!」
「大丈夫ですか? 我々がついていますから‼」
「みんな……ありがとう。姫も負けないようにするわ!」
「「「姫!(嗚呼、なんて健気で愛らしいんだ‼)」」」
「……そういえば、聞いた話なんだけど。『あの方』が、えっと、その……あまり大きな声では言えないのだけど」
「どうされました?」
「『あの方』とは――もしや、ペッシャールですか⁉」
「しっ! お前、声が大きいぞ‼ 姫、またペッシャールに何かされたのですか⁉」
「あ、いえ! ちがうの……ちょっと耳にしただけなんだけどね。あの方、リオ様がいるのに――その、別の男性と……」
「まさか! あいつ、殿下がいるのに浮気しているのですか⁉」
「なんてやつなんだ‼」
「やはりペッシャールなんかに王子妃なんて勤まるはずがないんだ‼」
「みっみんな‼ そんな大声では……ただ聞いただけですし、本当かどうかも。それに、またわたしが――」
「「「ご安心ください‼」」」
「我々が、あんな女狐からお守りいたします‼」
「何かあれば直ぐにおっしゃってください!」
「姫のためなら、なんだって致します!」
「みんな……ありがとう! 姫は頼りにさせていただきますね!」
「「「はい!」」」
こう言ったように、どんどんレティシアに不利な噂の種を次から次へと流していった――が、それを良く思うはずもないあの人が火消しに走ることになった。マルレーヌの計画を邪魔しないように上手いこと情報操作をしているだけでとどめているのは、流石腹ぐ――おっほん。出来る男前であった。泳がせていたおかげで、マルレーヌの計画の全容が見えてきたのは、言うまでもない。流石腹ぐ――ゲホ、ゴホゴホッ。
泳がせすぎてレティシアに怪我をさせてしまう失態もあったが、それはまだ若い彼のこれからの成長に無くてはならない部分であったと目を瞑っておいてね。お約束だよ?
◆◆◆
「こちらが、転入時から現在までの記録になります。先程の転入までの記録には見受けられませんでしたが……所々小声すぎたりわけのわからない言葉があって聞き取れない部分もありますが、概ねこのように喚いておりました」
渡された書類は、ピンク頭がおかしな行動を取り出したと思われる時期をまとめたもの。見たところ、やはりこの学院に入ってから起こした行動であった。外にもうけた子をひきとったのなら、最後まで面倒をみろよ――ジルエット伯も、残念だな。
「……ピンク頭は、どこまで私のレティシアを貶めたら気がすむんだ?」
「母上に渡されて、騙されたと思って読んではみたが……まさか、巷で流行りの『物語の主人公』の様に振る舞っていたなんてな。でも、これで『何故レティシア様を標的にしたのか』がわかったじゃないか。物語に出てくる『悪役令嬢』の婚約者は『王子様』だしな」
「そうなると……物語が終わるまで、続く可能性がありますね」
「なら、こちらも乗ってやろう。誰かの物語が終わるように」
「「仰せの通りに」」
あのピンク頭は、この俺の逆鱗に触れたんだから――さて、どうしてやろうか? それにしても、ひとつ気になる事があるんだが。
「ところで、これは誰が書いた報告だ?」
「「……」」
「はぁ~……。うまくいかないわねぇ……」
「「??」」
「どうかされましたか? 姫」
「え? ああ!何でもないのよ? (いるの忘れてたわ)……ただ、どうして『わたしばかり』なのかと思って」
あっぶな! ここのサロンって居心地良いから、コイツらいるの忘れて思わず本音が漏れるところだったわ。とりあえず誤魔化せたからいいけど。それにしても、あの悪役令嬢やってるプレイヤー、全然自分から絡んでこないじゃない! こっちが一生懸命ヒロインっぽく振舞っているのにさ。職務怠慢よね? あ、それともゲームの中だからラノベ的展開の『悪役令嬢がざまあする』方を狙っているのかしら? それなら、ヒロインと仲良くしてるのもおかしな話よね……いや、この『マルレーヌ』がヒロインだとしたらラノベみたく『ざまあ』できるものね。なるほど、そっち狙いかも。じゃないと、攻略対象たちがあの悪役令嬢やってるプレイヤー周りにいるのも納得がいかないものね。そうね、そうなんだわ! じゃあ、やっぱりわたしが『ヒロイン』として、しっかり進めないとね!
いつの間にか考え込んでいたマルレーヌは、考え込んでいる彼女のことを『虐めに悩んでいる姫』と勝手に解釈していた劇団員たちに更なる『マルレーヌ的ヒロインシナリオ』を吹き込んでいくことにした。虐めの次は、『悪い噂』を。
「きっと、姫のかわいらしさに嫉妬しているんですよ!」
「姫、落ち込まないでください!」
「大丈夫ですか? 我々がついていますから‼」
「みんな……ありがとう。姫も負けないようにするわ!」
「「「姫!(嗚呼、なんて健気で愛らしいんだ‼)」」」
「……そういえば、聞いた話なんだけど。『あの方』が、えっと、その……あまり大きな声では言えないのだけど」
「どうされました?」
「『あの方』とは――もしや、ペッシャールですか⁉」
「しっ! お前、声が大きいぞ‼ 姫、またペッシャールに何かされたのですか⁉」
「あ、いえ! ちがうの……ちょっと耳にしただけなんだけどね。あの方、リオ様がいるのに――その、別の男性と……」
「まさか! あいつ、殿下がいるのに浮気しているのですか⁉」
「なんてやつなんだ‼」
「やはりペッシャールなんかに王子妃なんて勤まるはずがないんだ‼」
「みっみんな‼ そんな大声では……ただ聞いただけですし、本当かどうかも。それに、またわたしが――」
「「「ご安心ください‼」」」
「我々が、あんな女狐からお守りいたします‼」
「何かあれば直ぐにおっしゃってください!」
「姫のためなら、なんだって致します!」
「みんな……ありがとう! 姫は頼りにさせていただきますね!」
「「「はい!」」」
こう言ったように、どんどんレティシアに不利な噂の種を次から次へと流していった――が、それを良く思うはずもないあの人が火消しに走ることになった。マルレーヌの計画を邪魔しないように上手いこと情報操作をしているだけでとどめているのは、流石腹ぐ――おっほん。出来る男前であった。泳がせていたおかげで、マルレーヌの計画の全容が見えてきたのは、言うまでもない。流石腹ぐ――ゲホ、ゴホゴホッ。
泳がせすぎてレティシアに怪我をさせてしまう失態もあったが、それはまだ若い彼のこれからの成長に無くてはならない部分であったと目を瞑っておいてね。お約束だよ?
◆◆◆
「こちらが、転入時から現在までの記録になります。先程の転入までの記録には見受けられませんでしたが……所々小声すぎたりわけのわからない言葉があって聞き取れない部分もありますが、概ねこのように喚いておりました」
渡された書類は、ピンク頭がおかしな行動を取り出したと思われる時期をまとめたもの。見たところ、やはりこの学院に入ってから起こした行動であった。外にもうけた子をひきとったのなら、最後まで面倒をみろよ――ジルエット伯も、残念だな。
「……ピンク頭は、どこまで私のレティシアを貶めたら気がすむんだ?」
「母上に渡されて、騙されたと思って読んではみたが……まさか、巷で流行りの『物語の主人公』の様に振る舞っていたなんてな。でも、これで『何故レティシア様を標的にしたのか』がわかったじゃないか。物語に出てくる『悪役令嬢』の婚約者は『王子様』だしな」
「そうなると……物語が終わるまで、続く可能性がありますね」
「なら、こちらも乗ってやろう。誰かの物語が終わるように」
「「仰せの通りに」」
あのピンク頭は、この俺の逆鱗に触れたんだから――さて、どうしてやろうか? それにしても、ひとつ気になる事があるんだが。
「ところで、これは誰が書いた報告だ?」
「「……」」