指輪を外したら、さようなら。
「悪いな、バタバタで」と、大和が言った。
「何言ってんの」と、私は言った。
「麻衣たちさ、たまにでいいからさなえを連れ出してやってくんないか?」
「え?」
「あいつ、大斗が生まれてから、全然遊びに出てなくてさ。このメンバーで集まる以外、家事してるか、仕事手伝ってるかでさ。買い物も近くのスーパーに行くくらいだし」
「子供がいたら、そういうものでしょう?」と、私は残っていたポテトを口に入れて、空いた皿を重ねた。
「最近のママさんたちはそうでもないらしいんだよ。保育園や旦那に子供を預けてランチとか飲みに行ったりもするし、割と自分の服や化粧品にも金をかけたり? ま、金に余裕があるからなんだろうけど。けど、さなえはそういうの全然ないんだよ。家事も手を抜かないし、仕事も手伝ってくれて助かるけど、なんつーか……隙がないっつーか……」
「ちょっと意外だな」と、陸が言った。
「大学の頃のさなえって、なんか危なっかしかっただろ。大和じゃなくても、保護欲を掻き立てられるっているか、目が離せなかったんだけどな」
「うん。わかる。同い年だけど、妹がいたらこんな感じかと思うくらい、放っておけなかった」と、龍也。
「男ってバカだね」と、麻衣が低い声で言った。
「こんだけ長い付き合いなのに、全然わかってないんだから」
うんうん、と私とあきらが頷く。
「さなえ、結構しっかり者だよ? 普段はおっとりして危なっかしいけど、人を良く見てるし、家事とか仕事とかはかなり要領よく出来るし。料理させたら、この中で一番手際いいと思うよ」
そうなのだ。
体調が悪いとか、悩みがあるとか、さなえには隠せない。しかも、それをズバリ指摘するんじゃなくて、さり気なく労わって、話を聞いてくれる。人一倍世話焼きで、優しい。
「けど、出しゃばるようなこともしないでしょ。内助の功、なんてさなえのためにある言葉みたいなもんだよ」
「けどさ、それって男にしたらプレッシャーじゃね?」と、陸が言った。
「人それぞれだろうけど、あんまり完璧すぎても落ち着かないっていうか――」
「無理させてるんじゃないかって、思うんだよ」と、大和が言った。
「あいつ、自分のことは何でも後回しでさ。毎日、俺や大斗の世話ばっかで、そのうち嫌になるんじゃないか……とかさ……」
「そういう性分てだけじゃなくて?」と、龍也が言った。
「さなえって、おっとりしてるけど嫌なことはハッキリ言えて、流されるタイプじゃなかったでしょ。不満があったら言うと思うけど」
「確かにね」
「どうかな。大斗が生まれてから二人で話す時間もないし」
「そうなの!?」
「そ。だからさ、たまに女同士でストレス発散させてやってくれよ」
大和が、力なさげに笑った。
その時、ブブッとスマホが振動した。
ポップアップで表示しきれる、短いメッセージ。
『飲み過ぎるなよ』
服の下の痕が、熱い。
比呂の唇の感触を思い出す。
私はメッセージに返事をしなかった。