指輪を外したら、さようなら。



 二人でパイを食べた翌日。

 私と比呂は、夫婦になった。

 比呂はすぐにでも札幌で新婚生活を始めたがったが、タイミングの悪いことに悪阻が始まった。

 私は実家に残り、一か月後に札幌に戻った。

 とりあえず比呂のアパートで暮らし、じっくり新居を決めるつもりだったが、お父さんが結婚祝いにと土地を譲ってくれた。

 お父さんが亡くなった母親、つまりは私のお祖母ちゃんと暮らした家があった場所。

 家は古くなって危険だからと、何年も前に取り壊していた。

 正直、迷った。

 けれど、比呂に背中を押されて有り難く受け取ることにした。

「今まで一緒に居られなかった分、娘に何かしてやりたくて仕方ないんだよ」

 なぜか、私よりもお父さんと頻繁に連絡を取り合っているらしく、両親が結婚するにあたって、お父さんが『相川』の姓を名乗ることになったと聞いたのも、比呂からだった。

「大河内って家に振り回されてきたから、捨てたかったんだろ? お母さんと二人で生きていくには十分な資産もあるし、後継者が決まったら引退するってさ」

 どっちが実の子供かわからない。

 帯広の家もあちこち傷んできていたこともあり、お母さんも札幌で暮らすことになった。

 二人は大河内観光とは縁のない会社の3LDKのマンションを購入した。

 そして、三月中旬。

 龍也とあきら、私と比呂の結婚祝い、陸の壮行会を兼ねて、大和とさなえの家に集まった。

「んじゃ! 色々おめでとう! 頑張れよってことで、かんぱーい!!」

 意気揚々と、大和がビールの缶を高々と持ち上げた。

「はいはい、ありがとう」と、陸が素っ気ない返事をして、缶に口をつける。

「なんだよ、ノリが悪りーな」

「色々とか一括りにしておいて、よく言うよ」

「そーだよ! ちゃんとお祝いしようよ」と、麻衣が陸に同調する。

「龍也とあきら、千尋と有川さん、結婚おめでとう!」

「ありがとう!」

 私たち四人が声を揃えて言った。

「陸、イギリスに行っても頑張ってね!」

「ん、サンキュ」

「じゃ、カンパーイ!」

「かんぱーい!!」

 各々の缶で乾杯をして、口に運ぶ。

 比呂はみんなに会うのが気まずそうだったが、私を探すのに手を借りた恩もあったし、何よりも私たちの結婚祝いも兼ねていると聞いて、一緒に来た。

 同業なのもあって、大和とは気が合うだろうなとは思ったけれど、既に旧知の仲のような打ち解けっぷりには驚いた。

 鶴本くんも参加している。

 比呂から、偶然鶴本くんと会ったことで、私を探し出せたと聞いていたから、麻衣を通じてお礼を言ったのは、電話でだった。
< 123 / 131 >

この作品をシェア

pagetop