指輪を外したら、さようなら。
 まったく。

 大和と陸の、麻衣への過保護っぷりは十年経っても変わらず。

 私とさなえも立ち上がる。

「ちょっと、大和! 静かにして!! 麻衣ちゃん、大丈夫?」

 さなえが大和を押し退けて、麻衣の肩に触れる。

「そんなに泣くんなら、イギリスに連れてくぞ、麻衣」

 冗談っぽく言っているけれど、陸の目は真剣で、しかも、鶴本くんを見据えている。

 昔っから、陸にとって麻衣が特別なことはわかっていた。

 麻衣が鼻をすすりながら、顔を上げた。

「行かない……」

「だったら、泣くな」

「だって……寂しいもん……」

「じゃあ、行くのやめっかな」と、陸が言った。

 何でもないことのように、ビールを飲む。

「麻衣を泣かせてまで行かなくてもなぁ」

「なに、言ってんのよ! ダメだよ!!」

「じゃあ、笑って送り出してくれよ」

 陸が手を伸ばし、麻衣の頭を撫でた。

「うん……」

「麻衣ちゃん、寂しいのはみんなおんなじだからね?」

「そうだよ、麻衣。OLCが大事なのは、みんな同じだよ?」

 地球滅亡の瞬間、『みんなと一緒に居たい』と麻衣は言った。

 きっと、十年後も、二十年後も、そう言ってくれる気がする。

 その頃は、『みんな』の中心に鶴本くんがいるのだろうけれど、それでも、きっと、麻衣は彼だけを名指ししたりしない気がした。

「前に、地球滅亡の時に誰と居たいかって聞いたじゃない?」

 振り向いた麻衣の顔は涙でぐちゃぐちゃ。鶴本くんのシャツは麻衣の涙と化粧で、さらにぐちゃぐちゃ。

「私、あの時は答えなかったじゃない? だから、今、言うね。私も……みんなと居たい」

「千尋……」

「比呂と、生まれてくる子供と、みんなと、一緒がいい」

 正直な気持ちだった。

 比呂は大事。生まれてくる子は、同じかそれ以上に大事。

 だけど、OLCのみんなのことも大事。

 大事に想う気持ちの種類が違うから、どっちが、なんて言えないくらい。

「一緒に、居よう」

 麻衣が大きく頭を頷くと、大粒の涙が彼女のスカートに落ちた。

「ほら、もう涙拭いて。私とさなえはいつでも会えるんだし」

「うー……」

 ティッシュを渡すと、麻衣は豪快に鼻をかんだ。

「私も! いつでも帰って来るから」と言ったあきらの目にも、涙が浮かんでいた。

 かく言う私とさなえもで、みんなでティッシュを引き抜いて、涙を拭う。

「いや、いつでもはヤメテ」と、龍也が言った。

「ホントにいつでも帰って来そうだから」

「龍也はいつまでもあきらに頭が上がんなそうだな?」と、陸が呆れ顔で言った。

「惚れた弱みだな」と、大和が笑う。

 龍也が苦笑いをしてこめかみを掻いた。

 こうしてみんなで笑い合える時間が、ずっと続けばいいと思った。

 十年後も二十年後も、ずっと。

 心から、そう思った。
< 126 / 131 >

この作品をシェア

pagetop