指輪を外したら、さようなら。

「シー……――」

 聞き取れない。

「なに?」

「シーツ!」

「はっ!?」



 シーツ……!?



「麻衣のシーツが欲しいって言ったの? そんなん、使い道は――」

「千尋! 声がデカい!」

 そばにいた店員にジロリと見られた。他の客には聞こえてないようだ。

「一昨日、鶴本くん家に泊まったの。シてないよ!?」



 いや、シてもいいだろうけど……?



「――けど、シーツは洗っちゃダメだって言われて――」

「使うから?」

「――じゃなくて!」

「ああ。『いい夢』を見れそうだから、だっけ?」

 麻衣が頷く。

 麻衣は顔が真っ赤。

 さなえは深く俯いている。



 あきらは……。



 意外なことに、あきらまで少し照れ臭そうにしている。と思ったら、次は難しい顔。



 龍也と似たようなことがあったか……?



「まあ、確かに『いい夢』だよね」

『ごちそうさま』の代わりに、言った。

 みんな、充実した恋愛をしているようで、なにより。

「そうは言うけど!」と、麻衣が目を見開いて私を見た。

「千尋はないの? 寂しい時とか、好きな人の服を抱き締めて眠ったりしちゃうこと!」

「……」

 思わず、黙ってしまった。

 昨夜、比呂のパーカーを着て眠ったことを思い出し、私まで恥ずかしくなる。

 それを誤魔化すように、私は頬杖をついて麻衣に言った。

「試してみる価値はあるかも……ね?」

 あきらの視線が気になったが、目は合わせなかった。

「とりあえず、やってみよう! さなえ」

「けど、反応なかったら?」

「それは、その時に考えよ? 美容室に行ってさっぱりしてさ、普段着てるパーカーとかカーディガンとか、うっかり忘れちゃったみたいに置いとくの。次の日にはわかるじゃない? 大和がそれに触れたのか」と、麻衣が言った。

「それか、『パーカー置き忘れた』とか言って、大和の部屋に行っちゃえば? で、くっだらない話でもしてさ」と、あきら。

「そうそう」と、私が頷く。

「ま、とりあえず! 美容室行って、さっぱりしよ。それだけで、気分も変わるよ」

 三時間後。

 私たちの作戦は、早くも半分が成功した。

 あきらが送ったメッセージに既読が付くや否や、有り得ない速さで大和がさなえを迎えに来た。



 次の飲み会で二人目の妊娠報告もあるんじゃない!?



 きっと、あきらと麻衣もそう思ったはず。

 車に乗り込むさなえは、嬉しそうだった。

 車を見送った私たち三人は、一仕事を終えた安堵と達成感でいっぱいだった。

 何となく、三人してスマホを見て、それから、解散した。
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