指輪を外したら、さようなら。
あきらはもう一つカゴをカートの下の段に載せて、出来立てのピザや冷凍パスタ、カップ麺なんかを放り込んだ。
あきらが持っているエコバッグでは足りるはずもなく、一枚五円の袋を二枚買った。
二人で両手に袋を持ち、落ち葉の上を歩いて帰った。
あきらの部屋に来るのは、久し振りだった。
相変わらず物が少なくて、小ざっぱりとしている。記憶の部屋と大して変わっていない。
龍也の存在を匂わせるものは、何もない。
テーブルの下に無造作に置かれた雑誌が目に留まった。住宅情報誌。
「引っ越すの?」
「うん」
「龍也と暮らすとか?」
「――まさか」
投げやりな言い方。
「何かあった?」
「……何かあったのは千尋でしょ?」
短い沈黙。
「飲むか」
「……だね」
テーブルにピザやつまみを広げ、私たちは缶ビールと缶チューハイを開けた。
数年前に来た時も思ったけれど、あきらのアパートは古い。立地と家賃の安さで選んだとは知っているけれど、今まで引っ越していなかったのが不思議だ。
就職してからしていた実家への仕送りを、まだ続けているのだろうか。
あきらは五人姉弟の長女。しっかり者で面倒見がいい。話しやすく、聞き上手で、相手の雰囲気や表情の違いによく気が付く。カウンセラーという職業は天職だろう。
けれど、彼女自身は秘密主義なところがあって、かなり頑固。
大学時代も、長く付き合っている彼がいること以外、ノロケもグチも聞いたことがない。聞けば少しは話すけれど、いつの間にか別の話にすり替わったりしていたものだ。
病気のことも、偶然私が気づかなければ、きっと今も話してはくれなかったろう。
けれど、病気のことや龍也との関係を知ってから、あきらはよく自分のことを話してくれるようになった。
「で? 日曜なのに龍也がいないのはなんで?」
私はスルメの袋の口を両手で引っ張った。バリッと派手に破けて、危うくスルメがピザのトッピングになるところだった。
「……先週の日曜にさ――」
あきらがすんなり話し始め、少し驚いた。
私と同じで、誰かに聞いて欲しくていたのかもしれない。
元カレと再会したこと、メッセがきていること、龍也との関係が変わりつつあったこと。
あきらの話を聞きながら、私は二缶飲み干していた。
「大体、二人ともそんなに器用じゃないでしょ?」と、私はスルメを噛みながら言った。
スーパーのものにしては、美味しい。
「龍也は大学時代からあきらが好きで、あきらは高校時代からの恋人と十年付き合ってた。二人とも一途な性格なのに、恋人がいない時だけセフレ、なんて器用に気持ちを切り替えられると思う方がおかしいでしょ」
ずっと、言い続けていたことだ。
そして、これは、ずっと言おうかと迷っていたこと。