指輪を外したら、さようなら。



 浮気の証拠写真と、相手の氏名や年齢、住所、家族構成がわかったというメールが届いたのは、五日後の夜だった。

 明後日から出張だから、明日にも事務所に行くことにした。

 調査結果に不満がなければ、そこで調査終了。調査時間二十時間の人件費と、調査に要した諸経費から着手金を引いた額を支払って、終わりだ。

 ハッキリ言って、時間も金もかけたくない。

 明日で調査が終わることを願うばかりだ。

「比呂……?」

 背を向けて眠っていた千尋が、寝返りを打ちながら目を開けた。

「どうしたの?」

「いや。いたずらメール」と言って、俺はスマホをサイドテーブルに置いた。

「とか言って、エロ動画でも見てたんじゃないの?」

 そんなことは露ほども思ってないくせに、千尋はニヤッと口角を上げて笑った。

「音出すなら、あっちで見てよ」

「お前の声を聞くから、いい」
 俺はチュッと音を立ててキスをすると、布団に潜り、彼女の胸に顔を埋めた。

「ちょっと! 寝不足になるから、やだ!」

 千尋が俺の頭を掴んで引き離そうとするが、もちろん俺は離れない。

「今日は早く寝るって言ったじゃない」

「けど――」と言って熱くなった腰を彼女に押し付ける。

 千尋相手だと、キス一つで身体が反応する。

 明日はそれぞれ一日中外勤だからと、セックスなしで早く寝ようとしたのに、無駄だった。

「エロ動画見ながら抜けば!?」

「どうせお前を妄想するんだから、実物抱くに決まってるだろ」

 色気のない会話をしながらも、俺は彼女のパジャマを脱がせていく。

「早めに終わらせるから」

 千尋の腰を抱いて起き上がり、パジャマの袖を抜く。彼女の腕に鳥肌が立つのがわかった。

「わり」

 俺はもう一度彼女を寝かせ、布団をかぶった。

 彼女の身体が冷えないように、ぴったりとくっついていた。互いの汗で肌が滑り、動きにくくても、離れなかった。

 千尋も俺の首に回した腕を外さなかったし。



 何度抱けば、千尋は認めるのだろう。

 指輪なんかなくても、俺を愛していると――。



 千尋がそれを認めた時、間髪入れずに婚姻届けを差し出せるよう、離婚しておく必要がある。

 離婚が成立して、指輪を外した俺を千尋が拒んでも、離れる気などなかった。

「愛してる……」

 耳元で囁くと、彼女が俺を締めつめた。



 身体はこんなに正直に喜んでいるのに。



 全く、面倒臭くて可愛げのない女を愛したもんだ。



 だから、か……。



「比呂、もっと……」

 千尋が涙目で俺を見つめ、頭を浮かせて唇を重ねる。




 可愛すぎて、面倒なんてないな。



 俺はハイペースで呼吸を繰り返す千尋の胸に痕を刻み、これが永遠に消えないことを願った。
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