指輪を外したら、さようなら。
11.波乱の忘年会



 比呂と暮らし始めてひと月ほど経った、十二月上旬。

 世間はクリスマスムード一色で、どこに行ってもクリスマスプレゼントやクリスマスケーキ、オードブルの広告が目についた。

 比呂と過ごすクリスマスは二度目だけれど、昨年同様、一緒にケーキを食べるくらいになるだろう。

 ちょっと奮発して食事に出たり、プレゼントを交換したりするのは、恋人同士のすることだ。

 私はカップルだらけの駅前通りを足早に進んだ。

 今年は暖冬傾向にあり、チラッとそれらしい雪が降っただけで、足元はアスファルトがむき出しとなっていた。とはいえ、札幌の十二月は、やはり寒い。

 私はストールで首元を隠し、手袋をはいている手をコートのポケットに突っ込んでいた。

「千尋!」

 目的地の手前三十メートルほどの交差点で信号待ちをしている時、後ろからよく知った声で呼ばれた。

「麻衣」

「寒いねぇ」

 麻衣も首にはファーのネックウォーマー、手袋、膝下のロングブーツでしっかり防寒している。

「ホント。冬の飲み会って、店から出た瞬間に酔いが醒めるんだよね」

「ホント、ホント」

二人で背中を丸めながら、本日の会場まで歩いた。

「いらっしゃいませ」

 ドアを開けると、ウェイターが颯爽と出迎え、深々と頭を下げた。

「OLCで予約が入っていると思うんですけど」と、麻衣が言った。

「お待ちしておりました。コートをお預かりいたします。ポケットに貴重品がないかご確認ください」

 私と麻衣は言われた通りにポケットを確認し、コートを脱いだ。預かりのトランプを渡される。

 OLCの飲み会は大抵居酒屋で、こんな洒落たレストランは初めて。

 今回の幹事は龍也とあきらで、店も二人が決めた。

 関係を解消した二人が幹事なのは少し心配だったが、変わって欲しいと言われることはなかった。

「どうしたんだろうね? こんなお洒落なお店なんて」

 麻衣も同じことを思ったらしい。

「今回は会費なしじゃなかった?」

「居酒屋でコース頼めるくらいは余ってたはずだけど……」

 OLCは三、四か月おきに集まる。その都度、会費を一万円ずつ集め、ちょっとずつ余ったお金を貯めて、会費なしで飲み食いする。で、その次からはまた会費を払う。

 今回は会費なし。

 前回の幹事の私と陸で、そう判断した。

 けれど、この店は明らかに高そう。

「幹事が予算に合わせて選んでるから、大丈夫でしょ」

 私と麻衣は、ウェイターの後に続いて奥のドアを抜けた。

「よ」

 龍也とあきら、陸が到着していて、円卓に並んで座っていた。

「お疲れ!」

 麻衣があきらの隣に座った。

「千尋、隣来いよ」

 私は陸に呼ばれて、隣に座る。

 いつもは畳か掘りごたつだから、途中からは席もぐちゃぐちゃになるけれど、今日は椅子席。座り順によって、どれだけ飲むことになるかが決まる。

「今日はめっちゃ飲みたい気分なんだよ」と、陸がテンション高めに言った。

「付き合えよ」

「いいけど、高いんじゃないの? この店。のみほなんてあるの?」

「龍也の伝手で、安くしてもらえるんだと。特別にのみほ付きで」

「へぇ」

「久し振りに、高い酒が飲めるぞ?」

 そういうことか。

 各席に置かれたドリンクメニューを見ると、名前だけでは想像もつかないような横文字満載。私は、何とか馴染みのありそうな名前を探した。
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