指輪を外したら、さようなら。
「陸ならホテルでいいお酒飲めるじゃない」
「職場で飲んで楽しいかよ」
「ま、確かに」
「あ、この辺はカクテルだな」と言って、陸がメニューを指さす。
「とりあえず、ビールか?」
「だね」
「大和とさなえもビールでいいかな?」と、麻衣がメニューを見ながら言う。
陸が横からメニューを説明する。
「あ、さなえは来れるかわかんないって。昨日、大和さんからメッセきたんだけど、最近体調悪いから、って」と言いながら、龍也がスマホを操作する。
「欠席のメッセはきてないけど」
「インフルとか流行ってるもんね」と、あきら。
「お前は? 鼻声じゃね? 大丈夫か?」
龍也が身を乗り出してあきらに言う。
あきらはフイッと顔を逸らした。
「大丈夫」
全く、見ていられない。
自分で龍也を振ったくせに、目も合わせられないなんて。
会話だけで動揺するほど好きなら、さっさとくっつきゃいいのに。
コンコン、とノックの後で、ドアが開いた。
「わり、遅れたか?」と、大和が息を切らして顔を出した。
「まだ、ドリンク選んでたとこ。さなえは?」と、私が聞いた。
ウェイターが大和の後から入って来て、ドアの前に立つ。
大和は空いている龍也と私の間に座った。
「さなえは欠席で。やっぱ調子悪くて」
「置いてきちゃって大丈夫なの?」
「ああ。みんなに顔出せなくて悪い、って伝えてくれって」
お揃いでしたら、とウェイターがポケットから端末を出した。
とりあえず、と全員ビールを注文した。
すぐさま、サラダが運ばれてくる。全員に用意された頃、ビールが届けられた。
「んじゃ!」と、龍也が立ち上がり、グラスを持ち上げた。
「今年もお疲れさまでした! かんぱーい!」
「乾杯!」
品の良いグラスビールが、それぞれの喉に勢いよく注ぎ込まれる。
それを見越してか、すぐに二杯目のビールが運ばれてきた。
「ビール以外のご注文はございますか?」とウェイター。
「梅酒、ありますか?」と、あきら。
「ございます」
「サワーで」
「かしこまりました」
「私はフルーツのサワーがいいな」と、麻衣。
「ストロベリーがお勧めです」
「それをお願いします」
「かしこまりました」
そうこうしている間に、次の料理が運ばれてくる。刺身の盛り合わせ。
「美味しそう!」
「龍也。さなえの分の料理、テイクアウトできないの? 刺身は無理だろうけど――」
「あー、いい、いらない」と、大和。
「どうせ食べらんないから」
「え?」
「つわり、でさ」
「え?」
「え!?」
「マジ!?」
各自、驚きの声を上げる。
「うそ! おめでとう!!」
麻衣が感激のあまり、勢いよく立ち上がった。
「やった!」
まるで自分に子供が出来たかのような喜びようだ。
「この前、レスだって泣いてたくせに、なんだよその急展開」と、陸。
「はぁ? 泣いてねーし!」と、大和。
「けど、またレスか。久し振りに張り切ったらデキちゃったって、高校生じゃあるまいし」
陸の言葉に、大和は苦笑い。
「それは、まぁ、痛いとこだけど、うっかりってわけじゃないからいーんだよ」
「まぁまぁ、めでたいことなんすから」