指輪を外したら、さようなら。

 大和と陸をなだめながらも、龍也が横目であきらの様子を伺っているのを見逃さなかった。

 あきらは麻衣と、いつ頃生まれるのだろうと話している。

「私たちが一肌脱いだ甲斐があったわけだ」と、私は大和に言った。

「ね? あきら、麻衣」

「そうそう! 感謝してよね、大和」

「は? なんで――」

「パーカー」

 あきらの一言に、大和が口をポカンと開けた。

「ナニしちゃったんだ?」

「してねーよ!」

「は? パーカー、って何の話だよ?」と、陸が興味津々で身を乗り出す。

「なんでもねーよ!」

「違うよね? 久し振りにお洒落したさなえを見て、ソノ気になっちゃったんだもんね?」

「そう! そうだよ! そういう意味では、きっかけ作ってくれて感謝してるよ」

 麻衣の助け舟に飛び乗って、大和が話を逸らす。

「先週からつわり酷くて、実家に帰ってるんだよ。その方がゆっくりできると思って。だいぶ落ち着いたから今日も来たがったんだけど、さっき迎えに行ったら、また寝込んでてさ」

「大斗くんの時も、キツそうだったもんね?」

「ああ」

「大斗くんは? さなえと一緒?」

「大斗が一緒じゃさなえが休めないから残したんだけど、二日が限界だった……」

「大斗くん、さなえにべったりだって言ってたもんね?」

「そうなんだよ。早くも赤ちゃん返りなのか、ますますさなえから離れなくなっちまって」

 なんだかんだと言いながらも、大和は幸せそうで、嬉しくなった。

 きっと、あきらも同じ気持ちだと思う。

 龍也はかなり心配しているようだけど。

「今日はその報告もしたくて、来たんだよ」

「マジかぁ。じゃ、タイミング悪かったかな」と、陸。

「何が?」

「いや。俺からも報告があってさ」

 全員が陸に注目する。

 陸もいよいよ待望の赤ちゃんが!? と、誰もが思ったはずだ。

 デキ婚したのに流産で、それから二年が過ぎた。

 言葉にはしなくても、みんな気にかけていたはずだ。

「離婚、した」

「――――っ!?」

 あっけらかんとした陸の告白に、耳を疑った。

「で、イギリスに行く」

「……はぁ!?」

「イギリス!?」

「その前に、離婚て!」

 慌てるみんなをよそに、陸は頬杖をついてビールを飲む。

「ずっと、家庭内別居状態だったんだよ。離婚するにも、仕事が忙しくてろくに話し合う時間もなかったってだけで二年もずるずるしちまったけど、俺のイギリス行きが決まって、記入済みの離婚届をテーブルに置いておいたら、いつの間にか記入してあった」

「そんな……」

「そんなもんだった、ってことだ」

「……」

 誰も、何も言えなかった。

 陸は真面目な男だ。

 うっかり子供が出来たことが理由だとしても、潔く責任を取った。

 その陸が、こんな風に離婚を語るのだ。

 これ以上、何が言えるだろう。

「それは、飲みたくもなるよね」

 一緒に飲むくらいしか、私にしてあげられることが思い浮かばなかった。

「よし! 飲もう!」

 私は呼出しボタンを押して、ウェイターを呼んだ。ビールのお代わりを注文する。

「いつ、行くの?」

 麻衣の震える声に、ハッとした。

「イギリス、いつ行くの?」
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