指輪を外したら、さようなら。
 やり過ぎたかと心配になって、顔を上げた。

 浅く、早い、乾いた息遣い。

 俺は冷蔵庫からミネラルウォーターを持って来て、千尋に飲ませた。口移しで。

 俺も一口飲む。

 俺も千尋も汗だくで、シーツは汗だかなんだかで、とにかくべちゃべちゃ。



 正気に戻ったら怒られんな……。



「千尋、まだへばんなよ」

 もう一口、ミネラルウォーターを彼女の喉に流し込む。

「比呂……」

 うっすらと瞼を上げた千尋の口から、俺の名が漏れる。

「比呂」

「……俺が欲しい?」

 両手で千尋の頬を挟み、顔を覗き込んだ。

「比呂……?」

「愛してるよ、千尋」

 額同士をくっつけて、囁いた。

「他にどう言えば……伝わるんだよ」

 何度拒まれても諦めるつもりなんかない。絶対に。

 けれど、それでも拒まれ続けるのは、辛い。

 千尋の本音が見えないのは、もどかしい。

 何度抱いても、千尋が見ているのは俺の指輪だけのようで、寂しい。

 俺が指輪を外したら、本当にさよならなんじゃないかと思うと、怖い。

「違うよ、比呂」

 千尋の両腕が俺の首に巻き付き、グイッと引き寄せられる。当たり前のように唇が重なり、当たり前のように舌が絡む。

 キスに夢中になっていると、千尋が身体を捻らせた。二人で抱き合いながらベッドに横たわる。

 彼女の片手が首から離れ、胸を撫で、腹を伝い、下りていく。

「千尋、やめ――っ!」

「嫌われたくないの」

「なに……が――」

「本当の私を知って、嫌われたくない」

「――そんなことっ!」

「比呂にだけは、嫌われたくないの」

 もうダメだと我慢を手放そうとした時、千尋が身体を起こして俺に跨った。

「愛してるから」

「千尋っ!? ダメだっ――」
 彼女の言葉と行動に思考が停止し、慌てて腰を掴んで制止しようとした時には遅かった。

 ずんっと勢いよく飲み込まれる。

「――――っ!!」

 あまりの衝撃に奥歯を噛みしめ、嬌声は音になれなかった。

 千尋はわかっているのだろうか。

 今、俺たちを隔てる物がないことを。

 吸い付くように、彼女の最奥に導かれる。

 ぐりっと腰を回されると、さらに深く沈んだ。

「比呂……」

 胸を突き出すように仰け反り、腰を揺らす千尋の口から名前を呼ばれると、もう理性も我慢も吹っ飛んだ。

 彼女の腰を掴み、勢いよく突き上げる。

「んんんっ――!!」

 腰を抱いたまま上半身を起こし、更に彼女を突き上げる。

「比呂……。比呂っ――!」

 俺は彼女の腰を、彼女は俺の首に腕を回し、きつく抱き合った。

「愛して――っるよ、千尋」

「んっ――! わた……しも」

「ちゃんと、言えよ」

「あっ、ああっ――」

 言え、と言いながら、言わせなかった。

 自己最速じゃないかという激しさで腰を振る。

「仕掛けたのはっ――、お前……だからな」

 酔っ払い相手に見苦しい言い訳をして、彼女の首に歯を立てた。

 酔って覚えてないとか、嫌だった。

 快感と痛みを、刻みつけたかった。

「千尋っ!」

 恥ずかしいくらい甲高い声で彼女の名前を何度も呼んだ。

「あっ! ダメッ!!」
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