CROSS LOVELESS〜冷たい結婚とあたたかいあなた
プロローグ

「玲…!ああ…」
「クッ…美香…」
 
花嫁控室でなにが、起きてるのか…

頭が理解してくれない。

だって…

重なるシルエットのひとりは、ドレスをまとった私の双子の妹…佐伯 美香(さえき みか)。

そして、もうひとりは…

今日、私の夫になるはずの……タキシードスーツを乱した沢村 玲(さわむら れい)さん。

どうして…?

今日は私と玲さんとの結婚式で…美香も、玲さんの弟の蓮(れん)さんと結婚するはずなのに。



☆☆☆☆☆☆☆


「はい、今日はここまでです」
「ありがとうございました」

格式のある茶室。着物姿で先生へ向け一礼すると、後ろから小さなため息が聞こえた。

「本当に、薫(かおり)さんはいつもお美しい所作ですこと」
「今度沢村(さわむら)家のご長男とご結婚されるのですもの…ご安心ですわね」
「まぁ、あの代々政治家を輩出なさっている名家ですか」

もう十年以上通っている茶道教室では、すっかり顔馴染みになった奥さまたち。どなたも名家の妻ではあるけれども、臆面もないお喋りが好きなことは一般人と変わらない。

「伊集院様、花園様、花宮様、それではお先に失礼いたします。ごきげんよう」

控えめに、かつにこやかに微笑んで挨拶をする。
彼女たちと良好な関係を築かなくては…やがて、政界入りする婚約者、玲(れい)さんの役に立つために。
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