CROSS LOVELESS〜冷たい結婚とあたたかいあなた
木陰で涙を流していると、突然後ろから声を掛けられた。
「ーー現実は理解したか?」
「……!」
その声は、私の胸を抉り痛みを引きずり出す。
けれども…私は、認めない。認めてはいけない。
「現実…なんて、私が玲さんと結婚することだけよ、皆様から祝福をされて…私は幸せよ!あんな優しい方に…私にはもったいないお方に選んでいただけたのですもの」
「ハッ、自分自身に必死に言い聞かせてる…か」
馬鹿にしたような物言いに、さすがにむかっ腹が立った私はくるっと彼に向き直り声を張り上げた。
「そんなことありません!現に私は…幸せですもの!」
「泣いているクセに」
「これは、幸せの涙がこぼれただけですわ。私は幸せですもの…そうよ」
必死に、一生懸命言い聞かせた。でないとあまりにも自分が惨めになりそうで。
フ、と彼は…蓮さんは口元を歪める。
「そんなに言い張るなら、見せてやるよ…現実をな」
がっしりと手首を掴まれ、私の手を引いた蓮さんは大股でチャペルに近づく。その窓際に立つと、シッ!と指を口元に当てて指先でカーテンの隙間を示した。
そして、見つけた。
残酷な現実を。
「玲…!ああ…」
「クッ…美香…」
花嫁控室でなにが、起きてるのか…
頭が理解してくれない。
だって…
重なるシルエットのひとりは、ドレスをまとった私の双子の妹…美香。
そして、もうひとりは…
今日、私の夫になるはずの……タキシードスーツを乱した玲さん。
どうして…?
今日は私と玲さんとの結婚式で…美香も、玲さんの弟の蓮さんと結婚するはずなのに。
私のなかのなにかが、音を立てて崩れ落ちていった。