CROSS LOVELESS〜冷たい結婚とあたたかいあなた

「……疲れた」

迎えの車中で思わず呟くと、運転手の三浦(みうら)さんが「お嬢様、大丈夫ですか?」と心配そうに声をかけてくれる。嬉しいけれども…すぐに笑顔を作って「大丈夫よ」と返しておいた。

「…ですが…短大のご卒業の準備に加え、ご結婚式の準備にお稽古ごととご勉学まで…このままではお倒れになってしまわれますよ」

齢60を過ぎた三浦さんは、元々お父様の執事だったけれども。私たち双子の姉妹が出来たことで引退し、自ら運転手等を務めるようになった。彼自身奥さまに先立たれ、子どもが居ないから…と。色々お世話してくださった。

「ありがとう…三浦さん…あなただけね、私の心配をしてくださるのは…」
「そんなことは……」
「わかってるわ。お父様は私を駒としか見ていない。それくらいわかってる」

物心ついた頃から、家にはあたたかい思い出もないし楽しい時間を過ごした記憶はない。

私たち…双子を産んだ時にお母様は亡くなり、お父様は一切お家を顧みず…私と妹は乳母に育てられ、3つになった年に、それぞれ婚約者が定められた。沢村家の双子の兄弟…

長男の玲(れい)さんは、長女の私と。次男の蓮(れん)さんは、私の妹の美香(みか)と婚約し許嫁となった。
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