CROSS LOVELESS〜冷たい結婚とあたたかいあなた
溺れる
「蓮さんのお部屋へ案内してください」
冷たい雨の中、冷たい現実を知った私はボディーガードの烏丸さんに頼んだけれども。やはり彼は簡単に承諾してくださらない。
「奥様……それは」
さすがに結婚式当日の初夜。しかも日付けが変わろうとする深夜に、嫡男の花嫁が義弟の部屋に行くという疑われても仕方ない行動。主家に雇われている立場ならば、止めるのが当たり前だろう。
でも、私はもはや構わなかった。
スキャンダルに、なればいい。
誰も彼もが身勝手に振る舞い、私には都合のいい要求だけはしてくる。
なら、私だって好きにしたっていいでしょう?
「わ、私は……怜さんに相応しくあれ、と厳しく躾けられ努力してきた。子どもらしい楽しみも…青春も…女の子としての幸せも…何もかも捨てて…なのに…私自身をいらない、と言われたら…どうすればいいのですか?裏切られても仮面夫婦を喜んで演じて仕えて……今まで通りに、自分自身を全て捨てて…ずっと…人形のようにいろ…と?」
ざあざあ、と激しい雨のなかだから吐露できた。自分の抱いてきた気持ちを。
「みんな…みんな、勝手だわ!わ、私は一人の人間なのに…勝手な役割を要求して……私が感情も意思もないロボットのように思ってる。わ、私だって…傷つくし…苦しいし悲しいし…頭にくることだってあるのに…本当は、オシャレしたかった!パステルカラーのふわふわな服を着て…髪も染めて…編み込んだり…素敵な人と恋をして結ばれて……普通の幸せが、ほしかった!!」
私の心からの独白は、雨に消えたはず…だった。