CROSS LOVELESS〜冷たい結婚とあたたかいあなた
暗い闇のなかで、幼い子どもの泣き声が聞こえた。
誰だろう?
……いいえ……あれは、私。
幼い子どもの時の。
厳しかった父は、私が粗相をするとよく罰を与えられた。
体罰はなかったけれども、レンガ造りの古い倉庫にはよく閉じ込められた。
ああ、そうだ。あのときは確か3つくらいで、お稽古中に痺れた足を少し崩したら、ひどく叱られたんだ。
昨日の失敗で昨夜から食事をぬかれて、お腹が空いて集中力がなくなって…反省しなさい、と放り込まれたんだ。
どれだけごめんなさい、許してください、と泣き喚いても近づく人はいなくて。雪が降る真冬の寒さのなか、下着だけで震えながら歯を鳴らしてた。
でも…
夕方になって、ガチャガチャと鍵が開かれて。
入ってきたのは、いくつか年上の男の子。
「大丈夫?」
彼は、自分が着ていた上着やマフラーを私に身につけさせ、裸足の足に靴を貸してくれた。
「ブカブカでごめんね。けど、無いよりマシだろ?…はい」
男の子は紙袋から出した、ホカホカの白いおまんじゅうみたいなものを手渡してくれた。
「あったかい…」
「肉まん。うまいよ!ほら」
がぶり、とかぶりついた彼は、うまい!と笑顔になる。恐る恐る口にした“肉まん”は、熱いくらい暖かくて。…1日以上ぶりに口にした食べ物は、どんなごちそうより美味しかった。
「……おいしい」
「だろ?セレブにはコンビニなんて!って言われるけど。バカにできないよな」
私が夢中で食べきると、彼はくしゃくしゃの笑顔で喜ぶ。その目元には、ホクロが見えた。
「また、持ってきてやるよ。ぼくの婚約者なんだもん。大切にしたいからさ」