CROSS LOVELESS〜冷たい結婚とあたたかいあなた


暗い闇のなかで、幼い子どもの泣き声が聞こえた。

誰だろう?

……いいえ……あれは、私。 

幼い子どもの時の。

厳しかった父は、私が粗相をするとよく罰を与えられた。

体罰はなかったけれども、レンガ造りの古い倉庫にはよく閉じ込められた。
ああ、そうだ。あのときは確か3つくらいで、お稽古中に痺れた足を少し崩したら、ひどく叱られたんだ。

昨日の失敗で昨夜から食事をぬかれて、お腹が空いて集中力がなくなって…反省しなさい、と放り込まれたんだ。

どれだけごめんなさい、許してください、と泣き喚いても近づく人はいなくて。雪が降る真冬の寒さのなか、下着だけで震えながら歯を鳴らしてた。

でも…

夕方になって、ガチャガチャと鍵が開かれて。
入ってきたのは、いくつか年上の男の子。

「大丈夫?」

彼は、自分が着ていた上着やマフラーを私に身につけさせ、裸足の足に靴を貸してくれた。

「ブカブカでごめんね。けど、無いよりマシだろ?…はい」

男の子は紙袋から出した、ホカホカの白いおまんじゅうみたいなものを手渡してくれた。

「あったかい…」
「肉まん。うまいよ!ほら」

がぶり、とかぶりついた彼は、うまい!と笑顔になる。恐る恐る口にした“肉まん”は、熱いくらい暖かくて。…1日以上ぶりに口にした食べ物は、どんなごちそうより美味しかった。

「……おいしい」
「だろ?セレブにはコンビニなんて!って言われるけど。バカにできないよな」

私が夢中で食べきると、彼はくしゃくしゃの笑顔で喜ぶ。その目元には、ホクロが見えた。

「また、持ってきてやるよ。ぼくの婚約者なんだもん。大切にしたいからさ」


< 37 / 51 >

この作品をシェア

pagetop