CROSS LOVELESS〜冷たい結婚とあたたかいあなた
今日は、佐伯家で親族の集まりがある。
(気が重い…だけど…行かなくちゃ)
朝食は珍しく玲さんも一緒ではあるけれど、会話が一言もない。用意された和食はいつもどおり美味しいはずなのに…なんだか味気ない、というか…。
「瀬川さん、味付け変えられました?」
「いえ、いつもどおり。玲様のお好み通りに作ってますが…」
「ごめんなさい、私の勘違いね」
そうだ。沢村家にずっと仕える瀬川さんが、わざわざ腐った食材を使うわけない。味が変に感じるのも、匂いがやけに気になるのも気のせいだ。
でも、無理やり白米を押し込もうとして、たまらず口をおさえた。
「ご、ごちそうさまでした…」
なんとかそれだけ言うと、急いで部屋へ戻る。
(鼻や胃がおかしいわ……風邪かしら?お腹も変だし…薬湯だけ飲んでおこう)
きっと、ストレスから体が弱っているんだろう。葛根湯の薬湯だけ煎じて口にしておいた。
(お願い……どうか今日1日持って)
佐伯家に到着すると、久しぶりなのに懐かしいという思いが湧かない。あまりいい思い出がないからだろう。あの男の子以外には。
50畳ほどの広さのお座敷に、佐伯一族が集まるから壮観だ。とはいえだいだい各当主や奥様くらいで子どもは許されないけれど。
今回は私と美香が沢村家に嫁いだ報告とお披露目の意味もある。
玲さんの隣に座りながら、こっそりと姿を探してしまう。
いた……。
蓮さんは相変わらずダサい変装で美香の隣にいるけれど…。
美香が羨ましい、と感じてしまった。
美香は、蓮さんに抱かれたの?
あんなふう情熱的に愛されたの?
夫婦なら当たり前なのに…とてつもなく妬ましくて…苦しい。
涙が出そうになり、ハンカチを握りしめうつむく。
そんななか、美香が驚く発表をした。