CROSS LOVELESS〜冷たい結婚とあたたかいあなた
客間となる1階の応接室では、案の定二人がけのソファに婚約者の玲さんと妹の美香が並んで座っていた。
いつもどおりに、親しすぎる距離。ずいぶん話は弾んでいるようで、2人は笑っている。
対するソファに一人で座る美香の婚約者の蓮さんは、黙ったまま俯いていた。
(変わらないわね、美香は)
妹の美香は、幼い頃からそうだった。
双子の姉妹で顔かたちは似ていても、彼女は社交的で明るく人気者。20歳になる今は少し明るめに髪を染め、ふんわりとしたアレンジで最新の明るいメイクを施してる。
着ている服も欧米の一流デザイナーズブランド。ネイルした爪先に至るまで、ため息が出るほど綺麗だ。
対する私は個性を禁じられ、ずっと真面目かつ清楚であることを強いられてきた。
将来の政治の妻としてスキャンダルはご法度と、交友関係も監視選別されて。今もまとめた黒髪に白いブラウスと膝下のスカート。足には必ずストッキングやタイツ。
美香は異性の“お友達”がたくさんいても問題にされないのに、私は異性に話しかけられただけで厳しく叱責されてきた。
だから、私はきっと…つまらない女だと自分でも思う。
「ごきげんよう、玲様、蓮様。ご無沙汰いたしております」
「ああ、薫さん。そんなに堅苦しい挨拶は結構。婚約者同士なのですから」
スカートを摘んで淑女の挨拶。玲さんに堅苦しいと思われても…私はこれ以外知らない。